(転生)悪役令息は、バックレたい!

葛城 惶

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それでもまだ平穏な日々...のはず

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 前もって手を打っていた甲斐があって、苛め事件の無い学園生活は、極めて快適で順調......なはずだった。

 可愛い主人公クリスは、無難な学園イベントの中で順調にターゲットを攻略している。
 でも、本当に可愛いんだわ。背中あたりまで伸ばしたふんわりカールした髪が揺れると、おぉっと思う。
 なんで男の子なんだろうね、本当に勿体ない。
 
 彼が男じゃなかったら、というのはゲームの性質上無理だろから諦めるけど、あの髪がピンクゴールドじゃなかったら、俺はもっと魅了されていたと思う。やっぱりショッキングピンクはなぁ~。恨むぜ、作画担当。俺が会議で『もう少し控えめな色で......』って提案したのに、『主人公は目立たねば意味ありません!』とか力説しやがって。

 目立つよ、確かに。主人公っぽくモブの中にいると際立って可愛い。可愛いんだけど、みんな半分引いてる。せめてベビーピンクがかった金髪ならもっとモテたと思う。青春前期にイケイケなカラーはきついのよ。まだみんな初心ウブなんだから。

 そのせいか、攻略されたターゲットも及び腰なんだよね。今度、提案してみようかな。髪、染めたら?って。でも苛めになるからそんなこと言えない。
 元ゲームのシナリオでもラフィが好意で髪を提言したら、苛めと勘違いされて、クリスのファン達の怒りを買うんだよね。でクリスは自分の攻略対象の風紀委員を味方につけて、髪色自由のお墨付きをもらう。

 この世界はそのイベントは無いから制服の話になってる。詳しくは割愛するけど、クリスは私服オーケーのお墨付きを風紀委員からもらってる。

 これはさすがに特例措置過ぎるので、俺は、他の庶民の子や裕福でない貴族の子にも私服を認めるよう迫った。だから、今教室で制服を着ている子は一握りしかいない。
 まあ、風紀が乱れないように細かい指定事項は作ったみたいだけど、仕事のし甲斐があったろうってもんよ。
 世界観崩れても、もうこの世界は『青薔薇』の世界とは違うんだから、ノープロブレムさ。

 で、主人公クリスは生徒会長攻略に取り掛かっている。

 それはOK 。
 OK なんだけど、なんか妙なんだよね。なんか変な感じ。




「変て、何が?」

 午後からの剣の稽古のために着替えをしながら、俺はケヴィンに相談してみた。

「何がって?......視線を感じるんだよ」

 そう、時々、こちらを俺を見る視線を感じるんだ。ふいに。

「視線って、ラフィは美人だもん。ファンの熱い視線を受けることだってあるだろ?」

 ケヴィンはそれっぽく肩をすくめて口笛を吹きながら言った。

「止めろよ、それ。僕にファンなんていない。アイドルは僕じゃなくて、あっちだ」

 俺は、ついっ......と、視線で隣の教室を指した。俺とクリスは同級生だけど、クラスが違う。ま、二クラスしか無いけど。

 学園のアイドルは主人公のクリスだ。俺は悪役。まあ、それは嫌なんで、この世界ではモブをやってる。

「ラフィはアイドルじゃなく『姫』だよな。お転婆姫」

 ニコルがニヤニヤしながら乗っかってくる。

「お転婆言うな。俺は男だ」

 少しだけムッとしながら、中庭に走る。俺は剣の稽古は好きだ。トニー兄さんの休みの日には今も稽古をつけてもらってる。
 マグが週末に帰ってきた時には、一緒に稽古してる。マグは騎士志望なだけあって、強い。士官学校に行ってからどんどん強くなる。

ー俺も負けたくないー

 一生懸命、稽古に励む。

 が、俺はその日、ピタリと手を止めた。手を止めて、師範に申し出る。師範が頷いてくれたので、俺は一目散に背後の木立に走り込み、そこに隠れていたヤツの腕を掴んだ。
 そう、いつもの視線を感じたので、師範に捕まえる許可をもらったのだ。

「なんで覗き見なんかするんだ!」

 木の幹の影から引き摺り出した、そいつの姿に一瞬、驚いて固まった。

「アントーレ......王子?」

「離せよっ!」

 王子は乱暴に俺の手を振り払って蜂蜜色の髪を掻き上げた。ポンコツのくせに、そういう仕草が本当に様になる。顔がいいって得だよな。

「アントーレ殿下、このようなところで何をなさっているんですか?」

 師範がツカツカとこちらに歩み寄り、丁寧だが、ドスの効いた声で王子に訊いた。王子が顔を青ざめさせて、口をパクパクさせた。
 師範は元騎士団長。歴代の中でも最強って言われただけあって、圧が半端無いんだよね、こういう時。いつもは優しいオジサンなんだけど。

「じ、自習になったから......講義が休みになったから、息抜きに散歩をしてただけだ」

 王子の苦しい言い訳に、どういう訳か、師範はにっこり笑って言った。いや、目は全然笑ってないけど。

「では息抜きがてら、下級生の稽古の相手をしていただけますか?」

ーへっ?ー

 師範は、くるりと俺を振り向いた。

「ラフィアン・サイラス、お相手をしていただきなさい」

ー但し、ほどほどに...。ー

と無音で師範の唇が付け加えた。

「わかりました」

 俺は丁寧に頭を下げ、王子とともに生徒達の中に戻った。
 そして、か・な・り真剣に剣の稽古をつけていただいた。
 王子の立場上、負かすわけにはいかなかったが、ヤツがへとへとになるまで振り回してやった。

「ラフィは強いんだな」

 草の上に尻餅をつきながら、荒い息で言う王子の口調は不機嫌じゃなかった。なんか嬉しそうに見えたのは、俺の気のせいか?それとも実はM なのか?

 俺様なMって......以下略。

 あ、そうだ。王子に教えておかなきゃ。師範からきつく言ってもらおうかな。




ーストーカーは犯罪です!ー





 
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