(転生)悪役令息は、バックレたい!

葛城 惶

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主人公、登場

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 学園は新学期が始まった。
 元々このゲームの学年の始まりはなぜか春。まぁ日本のゲームだからね。異世界だし。
 てなわけで、秋になって、存分に夏のバカンスを満喫して、休みボケした頭に、転校生現る......の報がもたらされた。

「すっげえ可愛い子だってよ」

 ニコルが鼻息も荒く伝えてくる。

「ふ~ん」

 俺は欠伸をひとつ。うん、知ってるから。妖精っぽい容姿で、たちまち学園のアイドルになるんだよね~。で、学園の女王様的存在のラフィアンとバチバチ火花を散らすんよね。元のシナリオだと。
 つまりこの転校生の登場でゲームが始まる。

「まぁ、いいんじゃね?」

 この世界、俺が前世を思い出してからの俺や俺を取り巻く環境は『青薔薇』のゲームとは全く別物になってる。

 背中を覆うロン毛のはずのラフィアンの髪型は、肩下あたりでバッサリ切ったセミロングに、紺のリボンのシンプルなスタイル。だって不必要に長い髪なんて邪魔なだけじゃね?

 本当は刈り上げ短髪にしたかったんだけど、母に号泣されて諦めた。いつの世も息子は母親に弱い。

 着ているシャツもレースひらひら、ふわふわ~ではなく、シンプルな開襟シャツかスタンドカラー。襟のリボンは学園の決まりなんで仕方無い。

ーなんで、そんな庶民みたいな粗末なシャツを....!ー

 て、母親はやはり号泣したが、これは譲らない。服は動きやすいのが一番。しかも俺は人生で一番行動が活発な青春前期。余分な飾りなんか無駄なだけ。そう、俺は無駄が嫌いなんだ。

 お陰さまで今の俺は女王様ではなく、モブ。いいねぇモブ。好き放題できるもんな。
 もっともこの学園の中じゃあ際立った美貌ではあるらしく、『変わり者の姫』とかいう位置付けになってるらしい。知らんがな。
 少なくとも女王様やってるよりは楽だし、楽しい。

 んで、そんな青春学園ものの世界に突如現れたのが、謎の転校生、クリスチャン・ファンタジスタ。通称クリス。

 確かに可愛い。丸型でチマっとしてて、アーモンド型の目がくりっくりした、可愛い系ヒロイン。男だけど。マジで男なのが残念。
 
 もっともキャラ的には天然そうな外見に似合わず、結構あざとい腹黒な策士タイプ。つまりは野心家。
 まぁ、庶民から王子様のパートナーに昇り詰めようというんだから、そりゃそうだろう。俺はひたすらスルーするだけだから、関係ないけどね。まぁ、頑張って。


 しかしな、チラ見して思ったんだけど、リアルでピンクゴールドの髪は目にキツイわ。しかもクリスの髪はベビーピンクじゃなくて、ショッキングピンクに近い。作画担当、本っ当にセンスねぇなあ。
 レモン色の瞳ってリアルに考えたら、ほとんどモノ見えないぞ。いつも白夜な国にいるのか?みたいな違和感。

 まぁ、元々ゲームの世界だからな。売れ筋狙ったんだろうけど、学園の中はまるでコミケの会場まんま。かの有名なボカロキャラそっくりの髪色の子とか、とにかくカラフルな色彩に溢れてる。

 でもね、考えて。俺にとってはここ日常よ?コミケとかイベントは非日常だから少しくらい派手でも気分転換にいいけど、ずっとイベントモードはきついわ~。

 しかも前世の俺は、ちょいと行けば田畑、山河の綺麗な地方都市の普通の兄ちゃん。都会の極彩色にビビるタイプよ。で、この環境はめちゃヘビー。

 ニコルもケヴィンもわりと普通にありがちなビジュアルだから安心して友達ダチやってるけどさ。なんせゲームじゃモブだから。んでもって、今の俺もモブ。モブ最高!


 けどな、
 
 けどもうひとつ不安なことがある。

 俺はゲーム完成前に死んだけど、『奇跡の青薔薇』はβ版のゲームが二種類あってさ。ひとつは全年齢向けの健全乙女ゲーム、もうひとつがR18な、いわばエロゲー。
 どっちもBがL するには変わりないんだけど、β版で評価の良かっほうを正式リリースする予定だったんだよな。
 
 この世界が全年齢向けのゲームの世界だったら、全然問題ナシなんだけど、R18ゲームの方はシナリオがかなりえげつない。
 主人公の男ヒロインは結構なビッチで、モブレとかもあって、作ってて気分悪くなったもん。俺はストレートだったからさ。データ打ち込みしながら、ケツ痛くなってくるくらい、ハードな内容だった。
 だから......。

ーまさかとは思うけど......ー

 シナリオの中で、嫉妬したラフィアンが取り巻きを使ってヒロイン、クリスをモブに襲わせるんだけど、まあそれは、俺が命令しなきゃいい話。

 問題は俺がR18版のシナリオを全部覚えてないってこと。あまりの過激さにイヤ気が差して、後輩に後半は丸投げしてたからな。ヤツも終わって、かなりゲンナリしてた。


ーやべぇよな.....ー


 ともかく自分の尻は自分で守るしかない。なんとか健全乙女ゲームの世界であることをひたすら祈る俺だった。
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