(転生)悪役令息は、バックレたい!

葛城 惶

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悩めるお年頃

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 ポチャン......と情けない音がして、水面に小さな波紋が広がった。

「なぁ、本当にマグは士官学校行くのか......?」

 俺は上目遣いで親友で従兄弟の赤っ毛を見上げる。ふわふわの癖っ毛が風に揺れる。鳥の羽毛みたいで俺はこいつの髪が好きだ。

「ん?」

 と細められる鳶色の瞳も優しげで大好きだ。出逢いの頃はすんげぇ意地悪だった気がするが、そんな素振りはもう欠片もない。

「そんなに王立学園行くの、嫌か?」

 俺は、黙ってこっくり頷く。俺、ラフィアンはこのゲームの中じゃ主要キャラのひとり。敵役の公爵家の次男で、攻略対象の王子の婚約者。

 一生懸命、ストーリーを変えようと思ってるんだけど、この段階で、『設定』を変えるのはさすがに無理っぽい。
 ゲームのストーリーが始まるのは一年後、ラフィアンが十三歳になった学園の入学式からだ。そこで、主人公の男ヒロインに出会う。

ーまぁ、主人公が登場しないうちはゲームは終わらないってか、始まらないもんなー

 ストーリー補正?てほどの話じゃないけどやはり気が重い。

 元のシナリオでは、こいつ、マグリット・オーウェンは学園の不良で手の付けられないワル。でも、ラフィアンには辛辣だけど的確な指摘をする、なかなかイケてるキャラなんだけど、今は違う。

 ラフィアンの兄、トリスタンにラフィアンと一緒に剣術をみっちり仕込まれ、ついでに礼儀もきっちり叩き込まれた、将来有望な騎士候補だ。当然、士官学校からマジな勧誘が来てる。

「俺ひとりで、あのバカ王子の守りするの無理.....」

 膝を抱えてポソリと呟く。
 俺のこのゲームでの婚約者、この帝国の第二王子アントーレ・セルディオ・マーラーは、実はアホだ。その上、とんでもない俺様だ。

 顔だけは超絶いいんだが、後は空っきし。大事な事だから二回言うけど、いいのは顔だけ、容姿だけ。

 蜂蜜色の髪に空色のぱっちりした切れ長の眼、白い肌に整った鼻筋。まあ手足も長い。王族だから身のこなしは優雅だし、気障な台詞もさらりと言う。けど、それだけ。
 まぁ腐れ女子に受けるいわゆるツンデレ、俺様キャラなんだけど、リアルでは絶対関わりたくないタイプ。同性ならなおさらだ。

「そんなに落ち込むなよ、ラフィ」

 マグリットの大きな手が俺の髪をくしゃりと撫でる。大きくて温かい手だ。

「そうだよ、ラフィ。いい事だってあるかもよ?」

 反対側の隣から俺の顔を覗き込むのは、もうひとりの親友のルー。名前はルートヴィヒ・ワグナー。
 元のシナリオでは、子どもの頃にぐるぐるレンズの眼鏡をラフィアンに馬鹿にされて、それを恨んで主人公に手を貸す魔術オタクの少年。ちなみにワグナー先生の息子だ。

 でも、今の俺はそんなことしない。
 俺がルーを傷つけたのは、シナリオに無いからわからないけど、出逢いが十歳手前だったから、セーフだ。

 俺はとにかくルーを傷つけないように、気を使った。オタクなのはいい。俺は元からオタクは嫌いじゃない。俺だって事情が許せば引き籠りたかった。事情が許してくれなかったから、ゲームクリエイターになって、会社に引き籠ってたんだし。 

 でも、小さい頃から近眼は良くない。それにルーはとっても綺麗な顔立ちをしている。黒髪、黒い瞳で、わりと凹凸の控えめな、いわゆるお醤油顔だ。前世、日本人だった俺にはとっても懐かしい。癒される顔立ちだ。

 だから、ワグナー先生に提案して、俺はルーと一緒に屋敷のテラスで魔術の勉強をすることにした。

 少しでも明るいところ、緑のあるところなら眼に優しいし、ルーは草木や鳥や昆虫にも興味を持つようになった。主にポーションの素材や魔術のツールとしてだけど。

 結果、ルーはやはり陰キャで人見知りだけど、はにかみ笑いが魅力的な少年に育った。眼鏡はかけてるけど、ビン底じゃない。女子受けの眼鏡男子、てとこかな。
うん、俺、偉い。

「だって、ルーだって魔法学校行くんだろ?」

 そう、俺の努力の甲斐があって、こいつは学園に来る必要が無くなった。元のシナリオでは、こいつはラフィアンに馬鹿にされた復讐をしたいばかりに学園に入学してくるんだから。
 ラフィアンとの関係が良好な今はそんな必要がない。魔法学校へ行って、大好きな魔術の研究に打ち込みたい、って言ってた。ワグナー先生も大賛成だ。

 うん、みんな前向きになって、クソゲーのシナリオより遥かに前向きでいい顔をしている。




 けど、こんなに寂しいのは何故だろう......。
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