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学校の章
俺と悪役令嬢
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謝ったら許してくれる人はどれくらいいるのだろうか。
それって、本当に許しているのだろうか。
謝られたら許さなければならないから許している、の間違いではないだろうか。
本当は許せないのに謝られてしまったから許さなければならない人ばかりじゃないのか。
現に俺がそうだ。
両親について憎いとかそういう感情は一切抱いてないのは本当だ。
目の前で喧嘩をされたわけでも直接俺を攻撃して来た訳でもないのだから。
でも、何もしなければ子供は死ぬ。
俺と兄上だから耐えられただけであって、これがもしも前世の記憶も何も無い子供だったら死んでいる。
だから、例えば今から両親が今までのことを謝ってなんでもするから許してくれと追い縋られたところで「許しはしないから何にもしなくていいですよ」と言うだけだ。
許してくれるまで土下座をするなんて言われても。許しはしないから勝手にどうぞとしか言えない。
けれど、人々はそれを見てどう思うだろうか。
「許してやればいいじゃないか」と言うに決まっている。
それが嫌だから、まず両親から謝られたくはない。
俺が許せば家族円満?そんなものは申し訳ないがクソ喰らえだ。
遺伝子を提供されただけで、ただの他人である。
話はそれたけれど、つまり俺は許さなければならない状況が作り上げられてしまうから謝られるのが苦手だ。
みんなそうだと思う。
優しい彼だってそうだ。
彼は許せなくても、謝れば許してくれるのだろう。
それが、嫌だ。
そうさせてしまえば彼に嘘をつかせてしまうことになるのだから。
嘘が嫌いな彼に嘘をつかせて、許してもらえて良かったなんて。
どれほど罪を重ねるつもりなんだと思う。
だから、謝りたいけれど謝りたくないし。許されたくはない。
でも、アルルの言葉は一理あった。
謝る側が考えることではない。
それは確かにそうだ。
ああもう、わかんね。
どうやっても考えはぐちゃぐちゃと蛇行して同じところをグルグル回るだけで、何も活路を見いだせないまま時は過ぎ。
ダンスパーティの日だ。
いつぞやのようにキーンがくれたドレスは、ピンク色。
昔のように黄色いヒールで合わせてしまって出来上がったのは明らかに彼に未練しかないご令嬢。
確かにね、オトメユリだと言われた日から俺が着る服はそれに似た色でしたけども。
あの日から、着ていなかった色合いなんですよ。なんてキーンに苦言を呈すことは出来ず。
鏡の向こうの俺は相変わらずかわいいけれど、本当に似合ってるのかもかわいいのかも分からなかった。
兄上は可愛いと言ってくれたけど。
キーンにエスコートをされて入場すると会場の視線が一気に刺さる。
当然だろうとも、だって俺が婚約者候補っていうのはあくまで噂の範疇だったんだから。
それが今日パートナーとして引き連れているなんて確定したも同前だ。
にこりと年々兄上に似てくる微笑みを作って、愛想を振りまきながら彼を探す。
……いない?いや、これ確か内申に相当響くパーティなんですけど。列記とした授業の範囲内なのにまさか居ないなんて。
居ないなら……とりあえず。安心しておこう。自責の念の自問自答は後でにしておいて。
今はキーンと踊るのだから集中しなければ。
中央まで歩いてキーンと向き合うと、俺だけに聞こえる声で話しかけてきた。
「……まあなんだ。俺はアホのふりをするつもりが好き勝手し過ぎて生徒会長になった」
「好き勝手しすぎて生徒会長に?」
何がどうなってそうなったのか全く分からない。これからダンスする人に複雑怪奇な話を振らないで欲しい。
「だから、お前も好き勝手すればいいと思う」
「私が好き勝手したらキーン様の足が無事ではすまないかと」
「ハハッ、勘弁してくれ」
軽口を叩きあったところで音楽が流れる。兄上とノイローゼになるほ踊った音楽だった。
『ねえ、私。彼と踊りたいのよ』
俺の中の悪役令嬢が囁く。
なんだか久しぶり。お前生きてたのか。
世界の強制力くんは、こんなにゲームから逸脱した世界でどうして未だに俺だけを蝕もうとするのか。
『彼と踊りたいの、綺麗な人を私だけが手に入れられるに決まってるわ。だって私は美しいのだから。
誰もが羨む彼を私だけが』
無理に決まってるだろ。
『どうして? 貴方も彼が好きなのでしょう? なら、こんな穢れた子の手を振り払って今すぐ彼と踊りましょう。美しくて、純粋な王族の血が流れている彼と!』
ダンスに集中できないからちゃちゃ入れないで欲しい。
くそ雑魚世界の強制力めが。
……いや。彼女は、違うのか。
未練か。
彼に対する未練。彼を愛する未練。
ああ、でもやっぱりお前に好きにはさせないし。
お前は好きにはできねぇよ。
『どうして?』
俺の方がルエリア様のことが大好きだからだよ。馬鹿野郎。
パキン、と俺の中の憑き物が音を立てて割れた。
ああ、これで言い訳がなくなった。俺がルエリア様のことが好きなのが俺の中の悪役令嬢のせいじゃなくなってしまった。
でも、これって要は彼女の変わりに俺が未練に早変わりしただけな気もする。
いや。せっかく体が軽いんだ。ダンスに集中しよう。
目の前のキーンだって、相当いい男だぞ?悪役令嬢はどうして気に入らなかったのか。
足を踏まないように、手を握りこまないように。途中変な邪魔も入ったけれど、それでも優雅に淑女らしく踊れたと思う。
くるりくるりと最後に回って、お辞儀をすると曲が終わった。
拍手とお上品な歓声の中、フリィシュの「お嬢! 次オレと! 次オレと!」という声が聞こえた気がするけどお前踊れないじゃん。
ターンしてる時にちらりと見えたアルルが酷く羨ましそうな顔をしていて、申し訳なくなった。
これでも一応アルルにキーンと踊ってはどうかと言ったんだけど、一刀両断された。女装すればいけるんじゃない?と言ったら殴られて、アルルは3日ほどペンが持てなくなっていたなぁ。
そんなことを思いながらキーンからエスコートされるがままになっていると、明らかに今外に出た気がする。
「キーン、どういうつもりで」
「じゃ。俺は戻る」
「はあ!? ちょっと!」
ポイと俺ごと腕を放ったせいで無理矢理前に出されてバランスを崩してつんのめる。
「…………」
「…………」
ギリギリ踏みとどまって見上げたら、黄色の瞳と目が合った。
……踏みとどまってよかった。
あと少しでぶつかってた。危なかったなあ。
じゃない。
「……ルエ、リア様……」
「…………」
誰か、この状況から入れる保険を教えてくれ。
それかライフカードをくれ。
それって、本当に許しているのだろうか。
謝られたら許さなければならないから許している、の間違いではないだろうか。
本当は許せないのに謝られてしまったから許さなければならない人ばかりじゃないのか。
現に俺がそうだ。
両親について憎いとかそういう感情は一切抱いてないのは本当だ。
目の前で喧嘩をされたわけでも直接俺を攻撃して来た訳でもないのだから。
でも、何もしなければ子供は死ぬ。
俺と兄上だから耐えられただけであって、これがもしも前世の記憶も何も無い子供だったら死んでいる。
だから、例えば今から両親が今までのことを謝ってなんでもするから許してくれと追い縋られたところで「許しはしないから何にもしなくていいですよ」と言うだけだ。
許してくれるまで土下座をするなんて言われても。許しはしないから勝手にどうぞとしか言えない。
けれど、人々はそれを見てどう思うだろうか。
「許してやればいいじゃないか」と言うに決まっている。
それが嫌だから、まず両親から謝られたくはない。
俺が許せば家族円満?そんなものは申し訳ないがクソ喰らえだ。
遺伝子を提供されただけで、ただの他人である。
話はそれたけれど、つまり俺は許さなければならない状況が作り上げられてしまうから謝られるのが苦手だ。
みんなそうだと思う。
優しい彼だってそうだ。
彼は許せなくても、謝れば許してくれるのだろう。
それが、嫌だ。
そうさせてしまえば彼に嘘をつかせてしまうことになるのだから。
嘘が嫌いな彼に嘘をつかせて、許してもらえて良かったなんて。
どれほど罪を重ねるつもりなんだと思う。
だから、謝りたいけれど謝りたくないし。許されたくはない。
でも、アルルの言葉は一理あった。
謝る側が考えることではない。
それは確かにそうだ。
ああもう、わかんね。
どうやっても考えはぐちゃぐちゃと蛇行して同じところをグルグル回るだけで、何も活路を見いだせないまま時は過ぎ。
ダンスパーティの日だ。
いつぞやのようにキーンがくれたドレスは、ピンク色。
昔のように黄色いヒールで合わせてしまって出来上がったのは明らかに彼に未練しかないご令嬢。
確かにね、オトメユリだと言われた日から俺が着る服はそれに似た色でしたけども。
あの日から、着ていなかった色合いなんですよ。なんてキーンに苦言を呈すことは出来ず。
鏡の向こうの俺は相変わらずかわいいけれど、本当に似合ってるのかもかわいいのかも分からなかった。
兄上は可愛いと言ってくれたけど。
キーンにエスコートをされて入場すると会場の視線が一気に刺さる。
当然だろうとも、だって俺が婚約者候補っていうのはあくまで噂の範疇だったんだから。
それが今日パートナーとして引き連れているなんて確定したも同前だ。
にこりと年々兄上に似てくる微笑みを作って、愛想を振りまきながら彼を探す。
……いない?いや、これ確か内申に相当響くパーティなんですけど。列記とした授業の範囲内なのにまさか居ないなんて。
居ないなら……とりあえず。安心しておこう。自責の念の自問自答は後でにしておいて。
今はキーンと踊るのだから集中しなければ。
中央まで歩いてキーンと向き合うと、俺だけに聞こえる声で話しかけてきた。
「……まあなんだ。俺はアホのふりをするつもりが好き勝手し過ぎて生徒会長になった」
「好き勝手しすぎて生徒会長に?」
何がどうなってそうなったのか全く分からない。これからダンスする人に複雑怪奇な話を振らないで欲しい。
「だから、お前も好き勝手すればいいと思う」
「私が好き勝手したらキーン様の足が無事ではすまないかと」
「ハハッ、勘弁してくれ」
軽口を叩きあったところで音楽が流れる。兄上とノイローゼになるほ踊った音楽だった。
『ねえ、私。彼と踊りたいのよ』
俺の中の悪役令嬢が囁く。
なんだか久しぶり。お前生きてたのか。
世界の強制力くんは、こんなにゲームから逸脱した世界でどうして未だに俺だけを蝕もうとするのか。
『彼と踊りたいの、綺麗な人を私だけが手に入れられるに決まってるわ。だって私は美しいのだから。
誰もが羨む彼を私だけが』
無理に決まってるだろ。
『どうして? 貴方も彼が好きなのでしょう? なら、こんな穢れた子の手を振り払って今すぐ彼と踊りましょう。美しくて、純粋な王族の血が流れている彼と!』
ダンスに集中できないからちゃちゃ入れないで欲しい。
くそ雑魚世界の強制力めが。
……いや。彼女は、違うのか。
未練か。
彼に対する未練。彼を愛する未練。
ああ、でもやっぱりお前に好きにはさせないし。
お前は好きにはできねぇよ。
『どうして?』
俺の方がルエリア様のことが大好きだからだよ。馬鹿野郎。
パキン、と俺の中の憑き物が音を立てて割れた。
ああ、これで言い訳がなくなった。俺がルエリア様のことが好きなのが俺の中の悪役令嬢のせいじゃなくなってしまった。
でも、これって要は彼女の変わりに俺が未練に早変わりしただけな気もする。
いや。せっかく体が軽いんだ。ダンスに集中しよう。
目の前のキーンだって、相当いい男だぞ?悪役令嬢はどうして気に入らなかったのか。
足を踏まないように、手を握りこまないように。途中変な邪魔も入ったけれど、それでも優雅に淑女らしく踊れたと思う。
くるりくるりと最後に回って、お辞儀をすると曲が終わった。
拍手とお上品な歓声の中、フリィシュの「お嬢! 次オレと! 次オレと!」という声が聞こえた気がするけどお前踊れないじゃん。
ターンしてる時にちらりと見えたアルルが酷く羨ましそうな顔をしていて、申し訳なくなった。
これでも一応アルルにキーンと踊ってはどうかと言ったんだけど、一刀両断された。女装すればいけるんじゃない?と言ったら殴られて、アルルは3日ほどペンが持てなくなっていたなぁ。
そんなことを思いながらキーンからエスコートされるがままになっていると、明らかに今外に出た気がする。
「キーン、どういうつもりで」
「じゃ。俺は戻る」
「はあ!? ちょっと!」
ポイと俺ごと腕を放ったせいで無理矢理前に出されてバランスを崩してつんのめる。
「…………」
「…………」
ギリギリ踏みとどまって見上げたら、黄色の瞳と目が合った。
……踏みとどまってよかった。
あと少しでぶつかってた。危なかったなあ。
じゃない。
「……ルエ、リア様……」
「…………」
誰か、この状況から入れる保険を教えてくれ。
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