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第二章:

限りなく黒に近いグレー②

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 「そこらへんも気になってたし、身内のイブマリーに直接言わないのも不自然だしな。それに何ていうか、マックスさんが途中からずっとおかしかった気がする」

 「おかしかった、って?」

 「……強いて言えば、なのですが……始終、どうにも奥歯にものが挟まったような言い方をしておられたと。明朗快活な御仁ゆえ、余計目に付いたのやもしれませぬ」

 そして極めつけは最後、帰る寸前にドアを開けてくれた近侍さん――アーディスさんていうらしいんだけど、そのお兄さんが挨拶の後にこう言ったことだ。
 『……何卒、ご一考のほどを』

 始終侍従さんらしく物静かに付き添ってたし、あんな重要なポストについてるからにはそれなりの身分があろうに、わざわざ丁寧に頭を下げてくれたそうだ。これは何か読み取ってくれ、と言ってるに違いない。

 「確かマックスさん、公……じゃない、イブマリーさんのご実家には、もう話をしてきたって言われてたんです。だからとにかく皆さんと合流して、事情を話したら、一回あちらに行って確認してみた方が良い、ってことになって」

 「うん、確かに。朝は何も言ってなかったし、わたしがお見送りに行ってから連絡が来たんだろうね」

 そしてわざわざマックスさんが直接持ってきたのなら、絶対にひとに聞かれちゃまずい案件だ。ということに他ならない、最初に出会った時も大事な手紙を自分で叔父さんに届けてたし、あのひとってそういうとこがあるもんな。

 ……しかし、そうなるとますます不思議だ。そこまで人払いをして、話す人と場所を選んで、それでもはっきり口に出せないってどういうことだろう。

 (壁に耳ありとは言うけど、やっぱり誰かが盗聴してるのを警戒してた、ってことかな……)

 《……本当に聴ける状態だったかは置いておくとして、可能性すら排除しようとしていたなら、そういうことになるでしょうね》

 念のために脳内で質問してみると、アンリエットも大体同意見のようだった。よし、あとはうちの両親だな。少なくともお父さんの方は直接王家と血のつながりがあるわけだし!

 そうやって話がある程度まとまったところで、ふとショウさんが瞬きをした。視線はわたしの後ろ、壁際の方に向いている。この人にしては珍しい、ちょっと怪訝そうな表情で軽く首をかしげながら、

 「……あの、今更なのですが、フィアメッタは? 何やら打ち沈んでいるというか、先ほどから一言も発しておりませなんだが……」

 「ああ~~~~……」

 なんとかフォローしたいとは思いつつ、どう言っていいかわからないとき、人は意味不明な声を出してしまうらしい。脳内でそんなことを思いながら、わたしはそーっとそっちを振り返ってみた。

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