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第一章:
アカシア館のお茶会④
しおりを挟む外観と同様、どことなくカフェっぽい作りの室内だ。一番奥にカウンター、手前側に丸いテーブルが何個かあって、それぞれに小さい椅子がいくつか。床は緑色の絨毯が敷いてあって、歩くとふかふかして気持ちよさそうだ。
そして壁際には、天井まで届きそうな大きな棚が置かれていて、一面に瓶とか缶とかがずらっと並んでいた。両開きでガラス張りの扉に、銀色のラインでレースみたいな模様が描かれているのは、錬金術が施してある特別製の印だ。グラディオーレ商会にもたくさんあるから間違いない。
今の時間帯に光が入ってくる窓にはカーテンが引かれていて、明るさを補うための魔法の光が天井に灯っている。そして、その真下では、
「――お嬢様。私が怒っている理由がお分かりですか?」
「うう、はい、大体わかります~……」
「分かっておられるなら話は早い。今後二度と同じことでお説教をさせないで頂きたいのですが」
「い、いやー、それはちょっと確約できないっていうか」
「お嬢様!!」
「ごごごごめんなさい気を付けますー!!!」
黒髪に黒目、整ってるんだけど生真面目を絵に描いたような顔立ちで、部屋のど真ん中に仁王立ちしてるお兄さんがいた。腕組みして厳しい目線を送っているのは、正面の床で縮こまっている小柄な人影――顔は見えないけど、さらっさらの髪と可愛い声に覚えがあるから間違いない。
といいますか、それよりも気になることがあるんですけど。
「……なんで正座??」
「最初はちゃあんと椅子に座ってたんですがねえ。本人が自主的にやり始めたんですよ、脱走が常習になってきた辺りで」
「あ、やっぱ常習犯なんだ~」
「恒例になるほど逃げ出してるわけ、あの子……」
「そうなんですよ。それで毎度毎度捕まって、ああやって番頭さんからお叱りを受ける、ってとこまでがお決まりの流れです」
「……大丈夫? 番頭さんの胃壁」
「ええもう、センブリの茶と手が切れなくってね……ぜひ労ってやってください、泣いて喜びますんで」
「泣くほどっ!?」
こっそり聞いたところ、やっぱりこっそり返事が返ってきたものの、そう言ってるおそらく身内の人はやたらと楽しそうだ。常識人の血が騒いだのか、さっきまでのフリーズを脱してツッコミを入れてくれたフィアメッタにお願いしてるときは、わりとガチのトーンだったが。
「よし、そろそろ潮時かね。――すいません! お客さんが来られてますよ、カケスの旦那!」
「誰がカケスだ、誰がッ!!!」
「れ、レヴィンさんー!? ごめんジェイさん、私が言うこっちゃないけど落ち着いてー!!」
絶対わざとに違いないタイミングで、変な呼びかけをされた番頭さんが凄まじい勢いでこっちを睨んだ。それはもう、ぼけっとしていたわたしだけでなく、そこそこ肝が据わっているはずの女子コンビまで一斉にひえっ、と息を飲んだくらいのド迫力だ。あわてて中途半端に立ち上がった、案の定さっきの美少女さんだった正座の子がなだめにかかりつつ、火種になった人に文句を言う。
「もうっ、そのあだ名ダメだって言ったじゃん! 確かにジェームズだから愛称ジェイさんね、って言ったの私だし、それがたまたまレディアント語の『カケス』とおんなじ発音だったし、あとはえーと」
「口やかましいのが耳に障る鳴き声とそっくりだし?」
「そうそう! まさにそれ! ……って違うー!! がんがん火に油注ぐのやめてってー!!」
「あ゛ーっもうッ!! すみませんっ、お茶買いに来たんですけどー!!!」
『くわー!!』
これまた絶対狙って混ぜっ返したお兄さんに乗せられてしまい、背後の気配がさらに物騒になるのを察知した美少女さんが真っ青だ。危うく収拾がつかなくなるところで割って入ったのは、ここ一番ででっかい声を張り上げてくれたフィアメッタと、いつの間にか出てきていたエルドくんだった。
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