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第一章:
リンデンブルクへと続く道⑥
しおりを挟む「その相談事とやらについて、お聞きしてもよろしいでしょうか。無論可能な範囲で構いませぬゆえ」
「ええ、もちろん。殿下からもお許しを頂いておりますので。――私に話してくださったのは、神殿で第二の位についておられる大神官のお一人でした。このところ聖なる焔の様子がおかしい、常の通りに集め、灯し、拝し奉っているはずなのにと」
「……集める、ですか?」
「はい。その方が仰るには、『星燐』は最初は焔の形を取っていないのだそうです」
神殿に日々、祈りや信仰に対する祝福として降り注いでくる神気。それが集まって、目に見える結晶となったものが『星燐』なのだという。さすがにその集め方までは部外秘として教えてもらえなかったが。
「大神殿ではすでに、異変に対する調査を進めておられました。神気の巡り方、敷地内の浄化等については問題なし。別所にて天地を見守る星見役の皆さま、各地に散らばっておられる賢者様方からも、国内におかしな兆候は見られないと報告があったそうです」
「そうですか……であれば、まずは原因を突き止めるところから、ということになりましょうな。でなくば対策も立てられない」
「本来ならそれが定石でしょう。が――」
「ここからは俺が引き受けよう。アーディス、説明をありがとう」
すでに引き受ける方向で考え始めているリーダーの言葉に、アーディスの方がやや言いよどんだようだった。視線を投げかけたマックスから快くそう言ってもらい、ほっとした風情で一礼すると、用意してあった紅茶を淹れ始める。近侍はいわゆる秘書のような役割で、こういった雑用にはあまり関わらないはずなのだが、準備を整えていく手付きが流れるようだ。
「先ほども言ったことだが、神殿には記録がある。それこそ建国初期、あの大神殿が建てられた頃から現在に至るまでのものが揃っているんだ。今回の件でも、何か手がかりはないかとかなり精読してくれたらしい。それで分かったんだが――
『星燐』に異常が現れたのは、今回が初めてではない。三百年弱、つまりは建国から少し経った辺りだが、その頃にも同じようなことが起こっていたと」
その時もやはり、事の起こりは不明。しかしながら当時の神殿長と大神官たち、そして王家の面々が知恵を絞った末、どうにか解決に至ることが出来たと書かれていた。ならば今回も同様に、原因の究明は続けつつ、祖先に倣ってみようという方向になったのだ。
が、しかし。
「……あの、それでおれたちは何をすれば……?」
「うむ、そのことなんだ。君たちに相談したいのは」
おそるおそる、といった様子で挙手したスコールが口を開く。記録が古いことなど不安要素はいくつかあるとしても、とりあえずの対策は取れているのだ。外部の手を借りねばならない部分はないように思うのだが。
最年少の素朴な疑問に、マックスはうなずいてみせたが、そこから少々間があった。この明朗快活な王太子にしてはめずらしいことだ、と、少なからず不安を覚えながら見守ること、しばし。
「……事態を解決に導いたのは、神殿が考案したとある儀式だった。しかしこれが、誰にでも出来るというものではなくてな。
王家に所縁のある血筋の女性で、なおかつ高い魔力を持っていること。精霊や霊獣に好意を持たれやすいこと、という、稀有な条件があったそうだ」
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