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第七章:
ごきげんよう、『六連星』⑤
しおりを挟む「――名乗りが遅くなり失礼仕った。東邦は奏門郷から参った、ロウ・ヨヒラと申す。愚息が常々ご面倒を」
「い、いえ、とんでもないです! あの、ご存じだとは思いますがイブマリーです、いつもショウさんにはお世話になっております!!」
情報がてんこ盛りになった中庭の一幕から、しばしののち。みんなで移動してきたいつもの居間で、差し向かいに座った人とご挨拶をするわたしがいた。……いやね、それはいいんだ。いいんですけども、
(ひええ、なんかめちゃくちゃ緊張する……!)
心の中で情けない声を出しながら、そーっと上目遣いで相手を見やってみる。
今は室内なので、あちらはもちろん菅笠を取っている。さっきは陰になっていた、ちょっと長めで一つにくくっている紺色の髪とか、意志の強そうな琥珀色の目とか、真面目で誠実かつちょっと頑固そうな顔立ち(無論とてもカッコいい)がよく見えた。
こうやって観察すると、確かに息子さん――隣に座って、これまた緊張の面持ちをしているショウさんによく似ていた。本当はショウさんのほうが似ている、というべきなんだろうけど、知り合った順番的にそんなふうに思ってしまう。
いや、それはともかく。なんかこう、このお父様と向かい合ってると、ソファに座ってるのに畳の上で正座してるような気分になるんですが。お辞儀する時ですらものすごく姿勢がいいからだろうか、それとも静かだけど低くてよく通る渋い声のせいだろうか。三つ指つかなくて大丈夫か、わたし?
《確かに風格のある方よね。いかにも東邦の武人、剣豪って雰囲気だわ》
(だよねー!? カッコいいんだけどこう、きちんとしなくちゃっていう自発的緊張感がすごい!!)
《うんうん、分かるわ。背筋が伸びるわね》
脳内でガワの人に声をかけてもらって、ちょっとだけ気が緩む。そのタイミングで、わたしの隣から助け舟? が出た。
「ちょっとちょっと、ロウさんてば。ひとの娘に圧かけないでくれる? 怯えちゃってるでしょ」
「別に威圧などしておらんが」
「してるでしょーが! 現に! ふんぞり返って腕組まないのっ」
「お、おかーさん、大丈夫だから! わたし怖がってないし、ただちょっと緊張してるだけだし!! ……あ゛っ」
「……お主な、娘に気を遣わせてどうする」
「ほっといてちょうだい!!」
わたしの失言はきれいにスルーしつつ、ため息交じりでツッコミしてくれるロウさんに言い返すユーリお母さん。なんだかとても慣れているというか、なじんだ感じのやり取りだなあ。
そう思ったわたしのカンは間違ってなかったようで、相手は反対側に座っている公爵さん、いや、エルお父さんの方に視線を向けると、やっぱり同じような口調で続けた。
「……おい公爵殿、妻女を甘やかしすぎではないか? 大事ないのか、この為体で」
「うん、全く。そもそもユーリは身体が弱くて養生している、という触れ込みだから、あまり表に出なくて済んでいるしなぁ」
「………………然様か」
重ーいため息をついたロウさん、眉間にくっきりシワが。『この万年新婚夫婦が』って、口に出さなくてもはっきり伝わってくるほど頭が痛そうである。
「ええとその、両親がすみません……」
「いや、ご心配召さるな。『六連星』このかた二十年余りの付き合いゆえ、こちらもいい加減に慣れねば」
「プレアデスって、もしかして皆さんのパーティの名前、ですか?」
「如何にも。……それも話しておらなんだか、お主ら」
「ごめん、山ほど話すことがあったから。今なら大半のメンバーが揃っているし、ちょうどいいかと思ってね」
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