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第六章:
私を夜明けへ連れてって⑬
しおりを挟む空気はひんやり澄んでいて、たまにどこかで鳥が鳴いたり、木の葉が揺れたりする以外はとっても静かで、時折蛍みたいな光の粒がふわっ、と舞う。さまざまな幽世に通じているという妖精の路は、こんなときでなければめいっぱい散策したくなるほど綺麗で、うんと落ち着く場所だった。
もっとも落ち着くのは、元気に再会できたみんなが一緒だから、っていうのもあるだろうけど。
「そっか、じゃあティノたちは公爵さんちで待ってるわけね。何ともなきゃいいんだけど」
「多分大丈夫だと思う。お邸の人たちも一緒だったし、無理に動き回ってなければ」
「ティノ君とこんちゃんは攻撃得意だし、ケガしたらリーシュがいるもんね。イブのとこってホント万能だよねぇ」
「いやあ、気が付いたらこうなってただけで……あ、ドゥーさん、そっちは茂みが」
『ひぽ~~~』
「あの、おれが抱えてましょうか。さっきよりふらふらしてるし」
「え、でもだいぶ重いよ? いざってときに身動き取れないと困るでしょ」
「平気です、これでも鍛えてますから! ほら、こっちおいで」
『ぽ~……ひっく』
気持ちよく請け負ってくれたスコールくんに呼ばれて、千鳥足のドゥードゥーさんは素直に寄ってきた。羽根でふかふかしてる分もあるとはいえ、確実に一抱え以上はある鳥さんをひょいっ、と無造作に抱っこして全く同じペースで歩き始める。さすがに自分で言うだけあるな、格闘家さん。
「うんうん、元気になってよかったなぁ。さっきまでめちゃくちゃ心配してたもんな、スコール」
「その心配の何割かはオレたちだったけどな。……しかし何だ、姫さんはつくづくああいうのに懐かれやすいっつうか」
「ご人徳ですね。こうした路を使う妖精族の方々は、気心が通じて集まる友のことを『同質の魂を持つ』、もしくは『心に同じ色を宿す』と仰るそうですよ」
「五感に優れた一族らしい物言いですな。人の子であれば類は友を呼ぶ、と言うところでしょうか」
『うん、そんな感じ。エルフは目が良くっていろんなものを視るから、特にそう思うんでしょうね』
『きゅう』
ちょっと後ろを歩きつつ、年長者コンビと男子たち、あと妖精さんたちがわいわい話している。そうか、エルフってそういう言い回しをするんだなぁ。さすがフェリクスさん、旅歴が長いだけに物知りだ。
(そういやユーリさん、エルフ族だからこういうとこを通って来たんだよね)
今日のお昼くらいに、公爵さんちの庭に出現した妖精の路を思い出した。さっきまでいた真っ黒な空間、予想外のとこに突然できただろうし、うっかりぶち当たってたりしないだろうか。
いや、あのひとたちの魔力はけた違いだから、ちょっとやそっとの天変地異なんて余裕で吹っ飛ばせるのだ。が、問題なのはわたしの気持ちだった。
(もう出てこないことを祈りたいなぁ)
《そうね、本当に……》
脳内でつぶやいたところ、しばらくぶりでアンリエットから返事があった。あれだけいろいろあったので心配してたけど、思ったよりは元気そうで安心する。
だって今回の首謀者、こっちからきっぱり逆勘当(でいいんだろうか)したとはいえ、一応、ほんっとに一応、うちの不詳の父だし。身内のせいで知り合ったばかりの親切なエルフさんとか、もっと言うなら『紫陽花』や元パーティのみんなとかが被害に遭うとか、胃に穴が空くの確実な案件だ。
『まあまあ!』
明るい鳴き声に顔を上げる。足元のマンドラゴラさんが、つぶらな瞳を輝かせて先の方を指し示していた。なんだかとっても嬉しそうというか、自慢げな表情だ。それもそのはずで、
「――ああ、あれが出口なんだ。門みたいになってる」
『まあっ』
ぼんやり明るい道の先には、さっき即席栽培した世界樹に勝るとも劣らない大木が二本、どーんと並んで生えていた。これまた太い枝を差し交してアーチ状になっていて、立派な城門を連想させるたたずまいだ。やれやれ、とりあえず帰れそうかな――
『くわー!!』
『みんな止まって! 何か来るわ!!』
「あああ、やっぱりー!?」
《……そうそう上手くはいかないものね、世の中って》
ずっとおとなしかったエルドが威嚇し出したのと、エラちゃんがここ一番で緊張した声を出したのと。それとほとんど同時に、行く手を遮ってどばあっ、と生えてきた、トゲだらけの蔦だかツルだかを見て、わたしとガワの人は(多分)頭を抱えた。
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