上 下
305 / 372
第六章:

私を夜明けへ連れてって⑬

しおりを挟む


 空気はひんやり澄んでいて、たまにどこかで鳥が鳴いたり、木の葉が揺れたりする以外はとっても静かで、時折蛍みたいな光の粒がふわっ、と舞う。さまざまな幽世に通じているという妖精の路は、こんなときでなければめいっぱい散策したくなるほど綺麗で、うんと落ち着く場所だった。

 もっとも落ち着くのは、元気に再会できたみんなが一緒だから、っていうのもあるだろうけど。

 「そっか、じゃあティノたちは公爵さんちで待ってるわけね。何ともなきゃいいんだけど」

 「多分大丈夫だと思う。お邸の人たちも一緒だったし、無理に動き回ってなければ」

 「ティノ君とこんちゃんは攻撃得意だし、ケガしたらリーシュがいるもんね。イブのとこってホント万能だよねぇ」

 「いやあ、気が付いたらこうなってただけで……あ、ドゥーさん、そっちは茂みが」

 『ひぽ~~~』

 「あの、おれが抱えてましょうか。さっきよりふらふらしてるし」

 「え、でもだいぶ重いよ? いざってときに身動き取れないと困るでしょ」

 「平気です、これでも鍛えてますから! ほら、こっちおいで」

 『ぽ~……ひっく』

 気持ちよく請け負ってくれたスコールくんに呼ばれて、千鳥足のドゥードゥーさんは素直に寄ってきた。羽根でふかふかしてる分もあるとはいえ、確実に一抱え以上はある鳥さんをひょいっ、と無造作に抱っこして全く同じペースで歩き始める。さすがに自分で言うだけあるな、格闘家さん。

 「うんうん、元気になってよかったなぁ。さっきまでめちゃくちゃ心配してたもんな、スコール」

 「その心配の何割かはオレたちだったけどな。……しかし何だ、姫さんはつくづくああいうのに懐かれやすいっつうか」

 「ご人徳ですね。こうした路を使う妖精族の方々は、気心が通じて集まる友のことを『同質の魂を持つ』、もしくは『心に同じ色を宿す』と仰るそうですよ」

 「五感に優れた一族らしい物言いですな。人の子であれば類は友を呼ぶ、と言うところでしょうか」

 『うん、そんな感じ。エルフは目が良くっていろんなものを視るから、特にそう思うんでしょうね』

 『きゅう』

 ちょっと後ろを歩きつつ、年長者コンビと男子たち、あと妖精さんたちがわいわい話している。そうか、エルフってそういう言い回しをするんだなぁ。さすがフェリクスさん、旅歴が長いだけに物知りだ。

 (そういやユーリさん、エルフ族だからこういうとこを通って来たんだよね)

 今日のお昼くらいに、公爵さんちの庭に出現した妖精の路を思い出した。さっきまでいた真っ黒な空間、予想外のとこに突然できただろうし、うっかりぶち当たってたりしないだろうか。

 いや、あのひとたちの魔力はけた違いだから、ちょっとやそっとの天変地異なんて余裕で吹っ飛ばせるのだ。が、問題なのはわたしの気持ちだった。

 (もう出てこないことを祈りたいなぁ)

 《そうね、本当に……》

 脳内でつぶやいたところ、しばらくぶりでアンリエットから返事があった。あれだけいろいろあったので心配してたけど、思ったよりは元気そうで安心する。

 だって今回の首謀者、こっちからきっぱり逆勘当(でいいんだろうか)したとはいえ、一応、ほんっとに一応、うちの不詳の父だし。身内のせいで知り合ったばかりの親切なエルフさんとか、もっと言うなら『紫陽花』や元パーティのみんなとかが被害に遭うとか、胃に穴が空くの確実な案件だ。

 『まあまあ!』

 明るい鳴き声に顔を上げる。足元のマンドラゴラさんが、つぶらな瞳を輝かせて先の方を指し示していた。なんだかとっても嬉しそうというか、自慢げな表情だ。それもそのはずで、

 「――ああ、あれが出口なんだ。門みたいになってる」

 『まあっ』

 ぼんやり明るい道の先には、さっき即席栽培した世界樹に勝るとも劣らない大木が二本、どーんと並んで生えていた。これまた太い枝を差し交してアーチ状になっていて、立派な城門を連想させるたたずまいだ。やれやれ、とりあえず帰れそうかな――

 『くわー!!』

 『みんな止まって! 何か来るわ!!』

 「あああ、やっぱりー!?」

 《……そうそう上手くはいかないものね、世の中って》

 ずっとおとなしかったエルドが威嚇し出したのと、エラちゃんがここ一番で緊張した声を出したのと。それとほとんど同時に、行く手を遮ってどばあっ、と生えてきた、トゲだらけの蔦だかツルだかを見て、わたしとガワの人は(多分)頭を抱えた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

妹に婚約者を取られましたが、辺境で楽しく暮らしています

今川幸乃
ファンタジー
おいしい物が大好きのオルロンド公爵家の長女エリサは次期国王と目されているケビン王子と婚約していた。 それを羨んだ妹のシシリーは悪い噂を流してエリサとケビンの婚約を破棄させ、自分がケビンの婚約者に収まる。 そしてエリサは田舎・偏屈・頑固と恐れられる辺境伯レリクスの元に厄介払い同然で嫁に出された。 当初は見向きもされないエリサだったが、次第に料理や作物の知識で周囲を驚かせていく。 一方、ケビンは極度のナルシストで、エリサはそれを知っていたからこそシシリーにケビンを譲らなかった。ケビンと結ばれたシシリーはすぐに彼の本性を知り、後悔することになる。

断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした

カレイ
恋愛
 子爵令嬢に陥れられ第二王子から婚約破棄を告げられたアンジェリカ公爵令嬢。第二王子が断罪しようとするも、証拠を突きつけて見事彼女の冤罪を晴らす男が現れた。男は公爵令嬢に跪き…… 「この機会絶対に逃しません。ずっと前から貴方をお慕いしていましたんです。私と婚約して下さい!」     ええっ!あなた私の婚約者ですよね!?

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...