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第六章:
私を夜明けへ連れてって⑨
しおりを挟む一瞬真っ白だと思うけど、よーく見るといろんな色のきらめきが混ざっている――『エトクロ』ファンは、そんな不思議な魔法陣を真珠色って呼んでいた。
全編通して重要な役割を担うし、リュシーの最大の武器でもあったから、ゲームで出てきた中ではこの魔法が一番好き、ってひとは多い。かくいうわたしも、もし何かひとつだけ使えるようになるなら、これがいいよなぁと思ったものだ。
そんな憧れのひとつで、数え切れないほど見ていた魔法の光。見間違いようもなくリュシーの生得魔法の光が、真っ暗な空間を流れ星みたいにかっ飛んできて、わたしたち――ではなく、つかまっていた世界樹の方を直撃した。
……ざざっ……ざざざざざざざ……!!
うんと下の方から、何かやわらかいものが擦れるような音が駆け上がってくる。なんだなんだと目を凝らしているうち、あっという間にわたしたちの傍までたどり着いたのは、思っていたよりもずっと意外で、同時にうんと綺麗なものだった。
(つぼみだ、これ! 世界樹の花のつぼみ!!)
種ができるんだから、その前にはもちろん花が咲くはずだ。ただ『エトクロ』の本編では、育ち切る前にいったんそばを離れなきゃいけなかったから、開花の瞬間にプレイヤーは立ち会えなかった。どんな姿をしているのかは、ファンの間でも意見が分かれていたんだけど……
早くも開きかけているつぼみを見るに、花びらは五枚。さっき飛んできた光――もしかしなくてもリュシーの魔法と同じ真珠色だ。ひとつの花は手のひらにすっぽり入ってしまう大きさで、枝にぽつんとついていたら絶対目立たないだろう。だけど、
「アンリエット、見えてるー!? すっごいよ、一気に咲いてくよ!!」
《もちろんよ、壮観だわ……!》
はしゃぎまくった呼びかけに、応える中の人も声が弾んでいる。そりゃあそうだ、わたしだってここに『紫陽花』のみんなと、元パーティの皆さんを今すぐ連れてきてあげたいくらいなんだから。
ぽ、ぽ、ぽ……と、音にもならないほど微かな気配を連れて、真珠色の花が一斉に咲いていく。枝という枝、梢という梢に鈴なりになったつぼみが開くたびに空気が澄んでいき、同時に辺りに広がる闇がはっきりと薄くなった。いつか星降峰で見た、星の子たちが集まってきた時の光景みたいだ。
そうして眺め続けること、どれくらい経ったか。
――パキ――――――ン……!!
硬いもので思いっきり硝子を叩き割ったような、甲高い音が辺り一面に響いた。花に覆われてきらきら輝く世界樹のてっぺんで、すっかり薄くなった黒い帳にヒビが入る。と思った瞬間、それが一気に広がって、ばらばらと今までいた空間が崩れ落ちていった。
その向こう側から現れたのは何故か、どこまでも続く深くて静かな森だ。現世側では初夏なのに、ここは秋の明け方や夕方みたいにすっと涼しい。透き通った空気の中で、淡く光る青いベル型の花が一面に咲いている。時折ふわっと飛ぶのは本物の蛍か、それとも山の気から生まれた星の子か。
「……あれ? なんか見覚えがあるような」
《妖精の路ね。さっき、エルフの女性に逢ったときに見たでしょう? ここも一種の幽世で、彼らの通路のようなものよ》
「そっか、ユーリさんの後ろに見えてたあれかぁ」
「……っと、……ぶ!?」
ん?
ようやっと一息つけたところで、どこかから聞こえた声があった。あれ、これまたすごく聞き覚えがあるんだけど……でもここ、エルフ専用みたいなとこのはずだし……?
「――ちょっとドゥーさん、ホントに大丈夫!? いつになくふらっふらなんだけど!!」
『ひ、ひぽ~~~~……、ひっく』
『まままーま! まあまあ』
『妖精の路の空気で酔っ払っちゃったみたい、ですって。ほら、魔力も吸収しすぎるとふらふらするでしょう?』
「あああ、リーダーのアレと同じヤツか~~~!!」
「ひとまず、命に別状はなさそうですね。養生しつつ進むということで――、あっ」
「え? フェリクスさん、どうかした?」
……ええっと、ちょっと待って? 聞き覚えがあるどころじゃなかったです、はい。
藪を一つ隔てた向こう側。よろふらする巨大な鳥さんを介抱していた面々が、ひとりにつられて一斉に振り返った。
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