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第六章:

ファイター・イン・ザ・ダーク④

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 『じゃあこいつらというか、この鱗粉が原因なんですね? ……確かに燃すのが一番早いか』
 
 「ああ。幸い、我が同朋は火の属性を持っている。少々手荒だが、視界と光源を確保するためにはやむを得ん」

 「では、我々は援護を。街に火の気と残骸が及ばぬようにいたしましょう」

 「ありがとう、助かるよ。――ヴィクトル、行こう!」

 『了解、ご主人!』

 律儀に礼を言った上で相棒と声を掛け合い、ごおっという風鳴りを連れた先達たちが空を翔けていく。すぐさまアルバスが高度を下げ、その背でショウが刀の柄に手を置いて構えた。次の瞬間、

 ごわあああああああああ!!!

 轟くような音を上げて、頭上に炎の華が咲いた。

 黒竜の姿が豆粒ほどに見える距離だというのに、迸る熱気が空気を焦がし、闇を貫いて肌を焼く。いまだ濃く漂う『帳』の中、火明かりに照らされて落ちてくる無数の影が視界をかすめた時、狙いすまして鞘を払った。

 「『波濤千変テンペスト』、追補・水蛇!!」

 ざああっ、と、勢いよく降り出した驟雨のような水音が周りを取り囲む。刀の軌跡を追いかけて、現れたのは長大な水の大蛇だった。滑らかに透き通る鱗を煌めかせ、街の上に自分の身体で円を作るように陣取る。

 その中心から沸き起こった白い霧が渦を巻いて広がっていき、瞬く間に薄衣のような結界を作り上げた。半球状のそれは、ヴァイスブルクの全体をすっぽりと覆えそうなほどの規模だ。

 「……よし。どうにか形になったか」

 「あ、今日初めて使ったのか。もしかして、こないだ迷い込んでた幽世でヒントもらった?」

 「そのようなものだ。『序・破・急・終』以降は各々が創り上げるものゆえ、もっと時間がかかると思っていたが」

 「ショウさんの一族は代々、同じ魔法を受け継いでいる、ってことですか」

 『案外多いぞ、そういう家系。オレのこれだって一代につき一人、って縛りはあるが、まあ似たようなもんだしな。――に、しても』

 瞳を輝かせているスコールに解説してやりつつ、危なげなく対空を続けるアルバスは頭上を見やった。徐々に薄くなる闇の向こうで、いまだ猛威を振るっている炎の渦が垣間見える。射程といい威力といい、まさに甚大苛烈の一言だった。

 『良く見えねぇし、まさかとは思ったんだがなー……まじもんの絶焔竜ブレイズドラゴンかよ、おい』

 「はいっ! おれ、生きてるうちに会えるとは思ってませんでした!!」

 これまた元気いっぱいの返事が返ってきて、だよなぁと付け加えた声が若干ぼやきじみたのは致し方ない。

 アルバスの家が代々加護をもらっている月牙竜は、ランヴィエルでもそのほかの国でも希少種として知られている。が、それよりもさらに希少で、なおかつ絶大な魔力と高い矜持を誇り、滅多なことでは人前に姿を現さないとされるのが絶焔竜だ。もし契約したとなれば、高い戦闘力と竜族の叡智を我が元に、と欲する各国上層部が、熾烈な争いを繰り広げること請け合い……なのだが、
 
『そりゃ女将がパーティ組んでた、って公言しねえわけだ。下手しなくても大騒ぎになるわな』

 おそらくヘリオドール一族の家風によるものだが、現役時代の公爵はまだ婚約などもしていなかったらしい。後を継ぐと正式に決まってから、自分で選んだ妻を迎えたと聞いている。もしこんなハイスペックが早々にばれていたら、国の中枢を巻き込んでどんな騒ぎになっていたことか。
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