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第五章:
仄暗い夜の底から⑥
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周りで重力が反転した瞬間、鉄棒で前転したときみたいに血が逆流した感覚があった。もちろん、身体の中だけの話ではない。
「わっ! あ、ととと……ぐえっ!?」
地面につく直前で衝撃を和らげるつもりだったし、実際ほとんど思い通りになってくれた。だけどちょっとやりすぎたのか、それともわたしが思った以上に落っこちるスピードが出ていたのか、着地と同時にぽーんと前につんのめる。焦ってジタバタしてみたけど、抵抗虚しく思いっきり転んでしまった。痛い。
『……イブマリー、大丈夫? 反転のタイミングが早すぎたのかしら。今後の課題ね』
「ふ、ふあーい……」
相変わらず冷静なアンリエットに、うめき声で答えながらどうにか身を起こす。そうして、改めて辺りを見渡してみた。
――直前に迷子になっていたから、あの広いお邸のどのあたりになるのかはイマイチわからない。とにかく、わたしがどうにか不時着したのは、四方を廊下や建物の壁で囲まれた中庭のようなところだった。
さっきお散歩した庭園同様、たくさんの植物が植えられていて、間を通る小道もきちんと整備されている……ようだ。もうだいぶ濃くなった暗闇に遮られているから、大体のシルエットしか把握できない。
「全然見えないね……何だと思う、これ?」
『かなり高位の魔術であることは間違いないわ。宵闇の精霊は、限られた場所と時間にしか棲めないから……それだけを呼び寄せただけではないだろうけれど』
だよね、うん。後半は独り言みたいなガワの人の声に、ひざとか手のひらの土を落としながら深々とうなずく。
リュシーとかリラが使う光魔法と、対になるのが『宵闇』の属性だ。基本的に昼間には現れず、太陽が空をめぐる時間帯は光の差さない場所――つまり洞窟とか、ダンジョンとか、それこそこの前迷い込んだような幽世で静かに過ごしている。このひとたちの力を借りる魔法は強力だけど、その分難易度が高くて危険なことでも知られている、というのが『エトクロ』での設定だった。
で、だ。別に精霊さんたち自体が性格が悪いとか、人間を嫌っているとかいうことはない。ないんだけど、問題なのはこのひとたちが関わってくる魔法の性質だ。
「えっと、確か空間をぶち抜いて別のとことつなげるとか、逆に歪みが出来てて危ないところを修復するとかが基本、だよね? だけど」
『そう。本来つながるはずのないところに道を通す――つまり死後の世界とか、性質のよろしくない存在が大勢いるような魔界とかからも召喚が出来る。
もっとも知られているのは、冥府から魂を呼び寄せる死霊術ね』
「うげー……」
いたって冷静に分析して解説するアンリエット、さすが秀才だなぁと思うし実にカッコいい。カッコいいのだが、わかってはいても目の前に突き付けられるとげんなりしてしまった。
……つまり、あれだ。もうずいぶん前のような気がするけど実際はほんの数週間前、リーシュに会うために挑戦した離宮の高台ダンジョンにいたような、幽鬼とか塚鬼とか霊導師とかみたいなのを呼び出す専門の魔法である。
一般的にいいイメージがないジャンルだけど、このゲームではモロに魔王一派が使ってくる術として登場していた。つまり、一大事になるのはほぼ確定だ。なんだって昨日の今日で!
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