258 / 372
第四章:
彼女(イブ)についてワタシが知ってる二、三の事柄④
しおりを挟む憤懣やるかたなしという表情で、フィアメッタが語ったところによればだ。
離宮の高台ダンジョンを攻略して数日たった頃、回復したイブマリーは商会の中庭で掃き掃除をする女子コンビを手伝っていたらしい。お世話になっているのだから、出来る範囲で商会の雑事を手伝う、というのは、パーティ全員で決めたことだ。
世話をしてもらうのが当たり前の身分だったにもかかわらず、『それいいですね!』とあっさり受入れて参加表明した彼女は、やっぱり世間一般からするとご令嬢らしくない感覚の持ち主なのだろう。まあそれは置いといて、
「あたしはリラと落ち葉掃いてて、量が多かったから一回捨てに行ったの。で、戻ってきたらイブマリーは店の方に移動してて、かーさんがホウキへし折りかけてた。両手で」
「……えっ、マジで?」
「庭用のホウキって、柄が竹だからかなりしなるんじゃ……」
「マジよ。幸いばっきり逝く前に止められたけど。……で、何とか落ち着いたとこで話を聞いたらね」
なんでも、女将もまた『紫陽花』メンバーと同じことを思って感心したのだそうで。皆の前だと照れくさいだろうと、二人きりになったときを狙ってほめたのである。こんなに出来たお嬢さんがいるなんて、ご両親も鼻が高かろうね、と。すると、
『あ、ありがとうございます。……父はその、ちょっと微妙なんです、けど……』
「あからさまに目が泳いでたし、気になって少しだけ突っ込んで聞いたらしいのよ。そしたらなんて言ったと思う!?
あの子、毒を盛ったって疑われてすぐ追放が決まったけど、実家からは何にも助けてもらえなかったらしいわ。普通ならもっと調査しろとか、面会させてくれとか言うじゃない? そんなのまるっきりなくて、判決が決まった次の日には勘当されたって!」
「ええー!?」
場所が場所なので出来るだけ落ち着いて話そうとしたのだが、どうしても口調が荒くなる。感情のセーブが出来なくなっている証に、フィアメッタの周りで陽炎のように空気が歪んでいるのが見て取れた。召喚の意志がないのに、エルドの炎がこっちへ現出しかけているのだ。
もっともそれは、今初めて話を聞かされた他メンバーも同じだったが。
「そりゃひどいな……貴族の人は外聞が大事っていうけど、話も聞かずに縁切るか? 普通」
「イブがおうちのこと話さないはずだよ! 当主っておとーさんだよね、なんでそんな冷たいの!? 若旦那、なんか知ってる!?」
「……、火に油を注ぐゆえ、あまり口にしたくないのだが……どうにも必要以上に、家柄や体面というものを気にされる御仁らしい。婚約破棄された時点で、自分は実家にとって不良債権のようなものだと、イブマリー嬢が」
「――そんなわけ、ないじゃないですか!!!」
口々に言いあう中、一瞬雑踏が静まり返るほどの怒号が響いた。声の主は言うまでもない、先ほどから黙って……いや、衝撃で言葉が出てこなかったであろうスコールだ。こちらも激昂するあまりか、両眼が生得魔法を使うときのような黄金色になっている。
「あの人の価値はそんなことで下がったりしません!! いろいろ入り組んでたから、本当の事情は解らなかっただろうけど!! でも、そんなことをする子じゃないって信じることは出来るはずです!! そのひと、本当に実の親なんですか!?」
「あーっ、わかったわかった! あんたの言いたいことはよーくわかったから!!」
「す、スコールくん、ちょっと落ち着こう! 頭の血管切れちゃうよっ」
「おれは落ち着いてますっっ」
「……そっか、獣人族って仲間同士、情に篤いからなぁ。よしよし」
「不用意に耳に入れて悪かった。ほら、春ウサギも心配しているぞ」
『きゅうー』
「う゛うううう~~~」
他のメンバーから一斉になだめられ、ついでに半ば押し付けられた春ウサギにももふもふ頬ずりされ、顔をくしゃくしゃにしてうなる少年だ。
彼も星降峰の一件で助けられて以降、イブマリーに大層なついている。その相手が理不尽な扱いを受けたとなったら、義理堅いスコールの性格からしてこうなるのは目に見えていたことだった。
しかしながら、話はそこで終わらなかったのである。
『……案外、スコールの言ったことが当たってるかもしれないわ。あの子には強い呪いがかかってるから、他の人にばれる前に手放したかったのかも』
ぽつん、と。独り言めいて放たれたエラのつぶやきに、全員が勢いよく顔を上げた。
0
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
妹に婚約者を取られましたが、辺境で楽しく暮らしています
今川幸乃
ファンタジー
おいしい物が大好きのオルロンド公爵家の長女エリサは次期国王と目されているケビン王子と婚約していた。
それを羨んだ妹のシシリーは悪い噂を流してエリサとケビンの婚約を破棄させ、自分がケビンの婚約者に収まる。
そしてエリサは田舎・偏屈・頑固と恐れられる辺境伯レリクスの元に厄介払い同然で嫁に出された。
当初は見向きもされないエリサだったが、次第に料理や作物の知識で周囲を驚かせていく。
一方、ケビンは極度のナルシストで、エリサはそれを知っていたからこそシシリーにケビンを譲らなかった。ケビンと結ばれたシシリーはすぐに彼の本性を知り、後悔することになる。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした
カレイ
恋愛
子爵令嬢に陥れられ第二王子から婚約破棄を告げられたアンジェリカ公爵令嬢。第二王子が断罪しようとするも、証拠を突きつけて見事彼女の冤罪を晴らす男が現れた。男は公爵令嬢に跪き……
「この機会絶対に逃しません。ずっと前から貴方をお慕いしていましたんです。私と婚約して下さい!」
ええっ!あなた私の婚約者ですよね!?
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる