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第四章:

彼女(イブ)についてワタシが知ってる二、三の事柄④

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 憤懣やるかたなしという表情で、フィアメッタが語ったところによればだ。

 離宮の高台ダンジョンを攻略して数日たった頃、回復したイブマリーは商会の中庭で掃き掃除をする女子コンビを手伝っていたらしい。お世話になっているのだから、出来る範囲で商会の雑事を手伝う、というのは、パーティ全員で決めたことだ。

 世話をしてもらうのが当たり前の身分だったにもかかわらず、『それいいですね!』とあっさり受入れて参加表明した彼女は、やっぱり世間一般からするとご令嬢らしくない感覚の持ち主なのだろう。まあそれは置いといて、

 「あたしはリラと落ち葉掃いてて、量が多かったから一回捨てに行ったの。で、戻ってきたらイブマリーは店の方に移動してて、かーさんがホウキへし折りかけてた。両手で」

 「……えっ、マジで?」

 「庭用のホウキって、柄が竹だからかなりしなるんじゃ……」

 「マジよ。幸いばっきり逝く前に止められたけど。……で、何とか落ち着いたとこで話を聞いたらね」

 なんでも、女将もまた『紫陽花』メンバーと同じことを思って感心したのだそうで。皆の前だと照れくさいだろうと、二人きりになったときを狙ってほめたのである。こんなに出来たお嬢さんがいるなんて、ご両親も鼻が高かろうね、と。すると、

 『あ、ありがとうございます。……父はその、ちょっと微妙なんです、けど……』

 「あからさまに目が泳いでたし、気になって少しだけ突っ込んで聞いたらしいのよ。そしたらなんて言ったと思う!?
 あの子、毒を盛ったって疑われてすぐ追放が決まったけど、実家からは何にも助けてもらえなかったらしいわ。普通ならもっと調査しろとか、面会させてくれとか言うじゃない? そんなのまるっきりなくて、判決が決まった次の日には勘当されたって!」

 「ええー!?」

 場所が場所なので出来るだけ落ち着いて話そうとしたのだが、どうしても口調が荒くなる。感情のセーブが出来なくなっている証に、フィアメッタの周りで陽炎のように空気が歪んでいるのが見て取れた。召喚の意志がないのに、エルドの炎がこっちへ現出しかけているのだ。

 もっともそれは、今初めて話を聞かされた他メンバーも同じだったが。

 「そりゃひどいな……貴族の人は外聞が大事っていうけど、話も聞かずに縁切るか? 普通」

 「イブがおうちのこと話さないはずだよ! 当主っておとーさんだよね、なんでそんな冷たいの!? 若旦那、なんか知ってる!?」

 「……、火に油を注ぐゆえ、あまり口にしたくないのだが……どうにも必要以上に、家柄や体面というものを気にされる御仁らしい。婚約破棄された時点で、自分は実家にとって不良債権のようなものだと、イブマリー嬢が」

 「――そんなわけ、ないじゃないですか!!!」

 口々に言いあう中、一瞬雑踏が静まり返るほどの怒号が響いた。声の主は言うまでもない、先ほどから黙って……いや、衝撃で言葉が出てこなかったであろうスコールだ。こちらも激昂するあまりか、両眼が生得魔法を使うときのような黄金色になっている。

 「あの人の価値はそんなことで下がったりしません!! いろいろ入り組んでたから、本当の事情は解らなかっただろうけど!! でも、そんなことをする子じゃないって信じることは出来るはずです!! そのひと、本当に実の親なんですか!?」

 「あーっ、わかったわかった! あんたの言いたいことはよーくわかったから!!」

 「す、スコールくん、ちょっと落ち着こう! 頭の血管切れちゃうよっ」

 「おれは落ち着いてますっっ」

 「……そっか、獣人族って仲間同士、情に篤いからなぁ。よしよし」

 「不用意に耳に入れて悪かった。ほら、春ウサギも心配しているぞ」

 『きゅうー』

 「う゛うううう~~~」

 他のメンバーから一斉になだめられ、ついでに半ば押し付けられた春ウサギにももふもふ頬ずりされ、顔をくしゃくしゃにしてうなる少年だ。

 彼も星降峰の一件で助けられて以降、イブマリーに大層なついている。その相手が理不尽な扱いを受けたとなったら、義理堅いスコールの性格からしてこうなるのは目に見えていたことだった。

 しかしながら、話はそこで終わらなかったのである。

 『……案外、スコールの言ったことが当たってるかもしれないわ。あの子には強い呪いがかかってるから、他の人にばれる前に手放したかったのかも』

 ぽつん、と。独り言めいて放たれたエラのつぶやきに、全員が勢いよく顔を上げた。

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