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第三章:
精霊花の守り人⑧
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何となく、この辺じゃ見かけない雰囲気の植物だ。エトクロの世界観はヨーロッパの北の方をモデルにしているらしいけど、これはそれよりうんと南側、例えば地中海の沿岸とかの温かい地域を思わせる。花も葉っぱも大きくて華やかだからだろうな。
ふぁーん、と柔らかい羽音がした。そっちに視線をやると、霧の向こうから手のひらサイズの影が飛んでくるのが目に留まる。これは見間違いようもなくあの子だ。
「エラちゃん!」
『あっ、いたいたー。よかった、だいぶ探したの』
ふわりん、と軽やかに私の手の上に降りてきたのは、さっきぶりの妖精蜂さんだ。相変わらずのほほんとした話し方で、どこか怪我したり調子が悪かったりする様子もなく元気そのものだった。よかった。
『急に門が開くからびっくりしたわ。このあたりの境目、だいぶ薄くなってるみたいね』
「ああ、さっき落っこちたヤツか。そういうのって元々決まってる感じ?」
『元からのもあるし、たまたまそうなってるのもあるわ。今もそう』
ショウさんが言ったとおり、この霧は妖精さんにも悪い影響は与えないらしい。全く濡れていない羽根をぱたぱたさせながら、相手は可愛らしく小首をかしげて教えてくれた。足下の、さっきわたしが見つけた背の高い花を指さして、
『このへんって今、アスフォデルが満開になってるから。この花が咲く時期は、いつも現世側との境界線があやふやになるの。花にもミツにもすごく強い魔力があるから』
「へえ、そういう名前なんだ」
そしてミツが採れるのか。これだけ良い香りのする花なら、出来るハチミツもきっと美味しいだろう。このへんにミツバチが住んでいるのかどうかはわからないけど――
『『『ぶうーん!』』』
「うわあ!? ……あっ、いた」
突然耳元で低い音がして飛び上がった。急いで振り返ると、頭のすぐ後ろ側でホバリング中の橙花蜂が二、三匹。……察するに今の、『ミツバチならちゃんとここにいるぞー!』って主張か。なんかごめんなさい。
ふぁーん、と柔らかい羽音がした。そっちに視線をやると、霧の向こうから手のひらサイズの影が飛んでくるのが目に留まる。これは見間違いようもなくあの子だ。
「エラちゃん!」
『あっ、いたいたー。よかった、だいぶ探したの』
ふわりん、と軽やかに私の手の上に降りてきたのは、さっきぶりの妖精蜂さんだ。相変わらずのほほんとした話し方で、どこか怪我したり調子が悪かったりする様子もなく元気そのものだった。よかった。
『急に門が開くからびっくりしたわ。このあたりの境目、だいぶ薄くなってるみたいね』
「ああ、さっき落っこちたヤツか。そういうのって元々決まってる感じ?」
『元からのもあるし、たまたまそうなってるのもあるわ。今もそう』
ショウさんが言ったとおり、この霧は妖精さんにも悪い影響は与えないらしい。全く濡れていない羽根をぱたぱたさせながら、相手は可愛らしく小首をかしげて教えてくれた。足下の、さっきわたしが見つけた背の高い花を指さして、
『このへんって今、アスフォデルが満開になってるから。この花が咲く時期は、いつも現世側との境界線があやふやになるの。花にもミツにもすごく強い魔力があるから』
「へえ、そういう名前なんだ」
そしてミツが採れるのか。これだけ良い香りのする花なら、出来るハチミツもきっと美味しいだろう。このへんにミツバチが住んでいるのかどうかはわからないけど――
『『『ぶうーん!』』』
「うわあ!? ……あっ、いた」
突然耳元で低い音がして飛び上がった。急いで振り返ると、頭のすぐ後ろ側でホバリング中の橙花蜂が二、三匹。……察するに今の、『ミツバチならちゃんとここにいるぞー!』って主張か。なんかごめんなさい。
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