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第二章:
ティールームで昼食を③
しおりを挟む……そんな一幕を経て、現在に至るわけなんですが。
「お招きいただきありがとうございます、ベルンシュタイン公」
「いえ、こちらこそ急な申し出に応じていただいて。甚だ恐縮です、レオナール殿下」
きちんと挨拶する(もっともこの人が何かに手を抜いたとこは見たことがない)殿下に、これまた丁寧に感謝の意を述べてくれる相手。
歳は多分四十代の頭くらいで、すらっと背が高い。満月みたいな淡い金色の前髪を半分ほどかき上げていて、マックスさんによく似た黄褐色の瞳は穏やかに細められている。
服装はお客さんに気を遣わせないようにか、殿下みたいなベスト姿だったけど、そんな軽装でも思わず居住まいを正したくなるような雰囲気――気品とか優雅さとか、そんな感じ? とにかくオーラを感じる人だった。
(……アンリエットのお父さんとずいぶん違うなぁ。同じ貴族とは思えない……)
あのプレイヤー総出で嫌われていた、単に偉そうなおじさんとは印象がかけ離れている。ていうか比べるの自体失礼な気がする。一番近いのはりっくんのお父さんとか、ランヴィエルの王様かな? まあうちの陛下はさすがに殿下のお父さんで、普段あんまり笑わないタイプではあったけど……
あれこれつらつら考えて、うっかり見つめすぎていたかもしれない。ひとしきり挨拶がすんだ公爵さん、殿下からふっと視線を外したと思ったら、こっち――ううん、間違いなくわたしをまっすぐに見てきたからだ。
「そしてこちらの皆さんが、我々の優秀な後輩たちというわけだ。初めまして、私はエルネスト・フォン・ベルンシュタイン、知ってのとおりヴァイスブルク周辺を預かる身だ」
第一印象で明るいな、と思ったこの部屋はティールーム。つまり公爵さんたちがお茶の時間を過ごすための場所で、壁が半分くらいまるまるガラス張りになっている。
天井近くまであるガラス戸を開けると、外のテラスから続く庭園にそのまま出ることができて、天気のいい日はちょっとしたお散歩が楽しめるんだそうな。
「最近はすっかり初夏の気候に近づいてきたから、牡丹や芍薬が次々に花をつけていてね。長く庭を手掛けてくれている園丁長によれば、ここ数年でも最高の出来らしい」
『わー、ホントだ! おっきな花いっぱいー』
「はは、気に入ってもらえて何よりだ。良ければ後で見ておいで」
『はあーい!』『ふぃっ』
みんなが未だに緊張が抜けきらない中、いつも通りのマイペースでガラスにくっついてはしゃいでいる小動物さんたちはすごいなぁと思う。まあわたしは見ていて癒されたし、説明してくれてる公爵さんも動物好きなのかとってもご機嫌なので、いいっちゃいいんですが。
「……しかしベルンシュタイン公、こうした部屋は近隣のご婦人やご令嬢のお茶会で使うものではありませんか? 僕らはお邪魔になるのでは」
「うん。本来ならそうなんだが、うちはそういった集まりの主宰をする妻が出がちでな。留守の間は私の好きに使わせてもらっている、というわけだ」
王宮でお勤めしていて、さすがに偉い人慣れしているりっくんがさり気なく尋ねると、特に気分を害したふうもなくそんな返事があった。ということは奥さん、今日も忙しいのかなぁ。
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