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第一章:
ヴァイスブルクの休日⑥
しおりを挟む『エトクロ』の世界にはたくさんの魔法が存在していて、扱う職業にもさまざまな種類がある。
たとえばわたしのガワの人こと、アンリエットの『魔導師』。これはごく一般的な分類および呼び名で、幅広くいろんな魔法を扱うひとたちの総称だ。ゲームでやってたみたいに最前線で戦って国を守ったり、冒険者として依頼をこなすことで生活を成り立たせたりする。
さらに得意な分野で呼び名が分かれていて、武防具などのアイテム錬成を専門にする『錬金術師』、妖精や精霊なんかを呼び出す『召喚士』、天候や地形を操作する大掛かりな呪術を扱う『呪術師』――といった具合に呼び分けている。わたしがなった『幻獣使い』は、細かく分けたその中のひとつ、ということになるはずだ。
そして今日、噴水広場でバザーを開催しているのも、そんな魔法使いさんたちの一グループだったりする。
「薬草師ってやっぱり、植物に関する魔法や道具を扱うひとたちなんですよね」
「その通り。中でもこういった、一般市民でも使える薬品などを作ることにかけては定評がある」
並んでお店を見て回りながら、はきはき応えてくれるマックスさんである。相変わらずにこにこしてて楽しそうなその肩では、すっかり懐いたティノくんが長い尻尾をひょんひょん振っていた。こっちも大変にご機嫌だ。
「我がグローアライヒは雨が少なく、土壌も十分に肥沃とは言い難いが、逆にそれが植物の生命力を高めているらしい。こうして育ったものを生かして作る品はどれも良く効くと評判でな、誇らしいことだ」
『お花がどれもすっごくいいかおりがするー。みんなげんきだしとってもすなお!』
「ティノくん、お花が素直って?」
『うんとね、ひとが育てるときは、ちゃんとだいじにしてもらえないとひねくれちゃうの。そうなると薬にしたときにきかなかったり、逆にいたくなったりするんだ~』
「そ、そうなんだ!?」
さらっと恐ろしい情報をもらってしまい、思わずほっぺが引きつった。それってかなりシャレにならないと思うんですが。
「ええっと、じゃあその辺で普通に咲いてる野生のハーブって、勝手に収穫して使ったらやばいことに……!?」
『ううん、ふつーにじぶんで咲いてるコはだいじょーぶ。ニンゲンが植えてからほったらかして、おもいだしたみたいにとってお薬つくったらおこるかなぁ』
「……あー、なるほど。つまり、一回関わったら最後まで面倒見ろ、ってことか」
『そんなかんじー』
一瞬ビビりまくったものの、そういうことならまず安心だ。だってここまで見てきたハーブは言うまでもないけど、そこのお店に並べてあるラベンダーだって、どれも生き生きしていて淡い青紫の花をいっぱいに咲かせている。これだけ元気がいいのなら、お世話も愛情もめいっぱい受けているはずだ。
「それにしてもなんか、まだちっちゃい生き物とか、赤ちゃんとかを育てるみたいだなぁ。責任重大って感じ」
『まーま、まあ』
「ははは、そのようだな! 君のような人に愛情を注がれれば、草花も幼子も健やかに育つことだろう」
「……そ、そうかなぁ」
フードから肩に乗り移って、くるくると喜びの舞を踊っているマンドラゴラさんを撫でつつ口にする。独り言のつもりだったんだけど、しっかり聞き取っていたマックスさんから盛大にお褒めの言葉をいただいてしまった。なんか照れくさい。
(でもこんなふうに思えるのって、きっとカナンさんがイオンのお世話するの見てたからだろうなー)
先日のあれこれの後、引き続きリュシーと一緒に離宮でお世話になっている海竜さん親子に思いを馳せるわたしである。
カナンさんもだいぶ元気になって来たし、もうちょっと暖かくなったら海に出てリハビリとかも出来そうだということだった。なんかお土産持ってってあげたら喜ぶかもしれないな。
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