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第七章:
夢殿で逢いましょう⑤
しおりを挟む『それで、とにかく身体に戻してあげないとと思ったのだけれど、わたくしは魔法を封じられていて打つ手がなくて……そのとき、どこかから星の子が集まってきたの』
きっと星降峰で見たような、神秘的な光景が繰り広げられたのだろう。寄り集まった星の子たちがひときわ強く輝くと、その中から大変美しい女性が現れた。星々の冠を額に戴く、この世界の運命を司る天空の女神――ファンにはもちろん、言うまでもない。
「アストライア様!? なんで!?」
『ご本人が仰るには、今回の功績を称えてわたくしたち全員に目をかけて下さっているんですって。黄泉路で知った声がするから驚いた、とも言われたわ』
「そりゃそうでしょうね……」
神様の感覚は正直想像に有り余るが、ついこないだ手を貸してくれた知り合いのところからいきなり訃報が送られてきた、みたいな感じだろうか。ゲームで見た時はとっても頼りがいのあるカッコいいお姉さんて雰囲気だったけど、さすがにあわてただろうなぁ。
何はともあれ駆けつけてくれた女神様、アンリエットからざっと事情を聞き出すと、しばし考えてからこう言われたのだそうな。
――アンリエット、そなたはまだ生きたいか? その意思を持つのならば、こちらの人の子と魂を分かち合うがいい
「分かち合う? って」
『通常、魂はひとつの器に付きひとつだけ。それ以上が宿ったとすると、心身に恐ろしい負担がかかって崩壊してしまう。けれどそのまま戻そうにも、わたくしは大怪我で寿命が目の前に迫っていて、あなたは死んだ自覚がない上に異世界から迷い込んでいる。お互いに生き返るだけの力がなかったの。
だから一度ひとつにして、それをさらに二つに分けた』
こうすることによって、死にかけた自覚のあるアンリエットは自分の方の身体とつながり、自覚はなくとも現代日本という世界の記憶を持っているわたしも身体とつながれる。かくして無事に『わたし』は『エトクロ』の世界で息を吹き返した、んだそうで……
「……ええと、ちょっと待ってよ? じゃあもう半分って、元々いた世界に戻って生き返ってる!?」
『そうよ、わたくしも見せていただいたから間違いないわ。ここからなら見えると思うから、少し手を貸してもらっていい?』
「あ、はいっ」
優しく促されて、ほっそりしたきれいな手に自分のものを重ねる。ぽわっと淡く光った、と思ったとき、
『――こらー志織ー!! あんた休みの日だからっていつまで寝てんの、もう昼前よ!!』
『うえええ、もうそんな時間……?』
『お腹空いたとかないの!? とにかく起きて着替えなさい、お昼作ったから!』
『はあーい』
目の前に広がったのは、久々に見る自分の部屋の風景だ。起き出してこない娘を叩き起こしにかかっているのが、見間違いようもないうちのお母さんで。掛布団を引っぺがされて顔をしかめているのは、頭ぼさぼさだけどこれまた間違いなくわたし自身だった。なんでだろう、ちょっと泣きそうになってしまう。
『ね? 大丈夫だったでしょう?』
「はい……なんか、よかった。お母さんも元気で」
『勝手をしてごめんなさいね。 でもね、分けてしまったけれど元はひとつのものだから、今でもつながっているの。身体にも問題なく馴染んでいるし、これからは眠っている間にこうやってあちら側を視ることが出来るはずよ』
「そっかぁ……うん。ありがと、アンリさん」
『とんでもないことだわ。安心させてあげられてよかった』
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