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第七章:
夢殿で逢いましょう④
しおりを挟むセリフどおりのものすごく言いにくそうな声に、目を点にして顔を上げる。すると我が最推し、苦虫をまとめて百匹くらい噛みしめたみたいな渋い表情で、ため息混じりに話し始めた。
『ここは夢殿といって、ひとが眠っている間に魂がやって来る場所なの。いわば幽世のひとつね。さっきも言った天の川や天上界、冥界とかにも通じているわ。……わたくしが崖から落ちて、魂だけでたどり着いたのもここだった』
何せことの真相が全く伝わっておらず、心身ともに大ダメージを受けて打ちひしがれた直後のことだ。ああもうすぐ死ぬんだなぁとぼんやり分かりはしたものの、もはや身動きどころか何か考えることすらしんどかったアンリエットは、その場でひたすらぼーっと座り込んでいたらしい。すると、
『そこに流れてきたのがあなた、の魂』
「はい!? なんでっ」
『いえ、詳しいことはわからないのだけれど、胸を押さえていたから心臓の発作かと……随分長いこと寝不足が続いていたようだし、原因はそれかもしれないわ』
「うっそマジで!?」
困惑ぎみ、かつ冷静に指摘されて頭を抱えてしまった。あれか、あの怒涛の『エトクロ』やり込み月間のせいか!!
確かに学校でネトゲ依存症の話とか聞いたとき、睡眠時間を削りまくると若い人でも心臓に負荷がかかりまくって、寿命がダイレクトに縮むよって言われたけど!! こんないきなり来ますかー!?
まさかの自分も死んでた展開に動転していたら、申し訳なさそうな相手は軽く咳払いしてから話を再開してくれた。すいません、中断させて。
『夢殿が異世界にも繋がることは、たまにあるようね。まだお若い方のようだったし、うっかり迷いこんできたのならまだ送り返せるかもと思って、近寄ってみたの。……そうしたら、あなたね』
――ダメだ、やっぱ諦め切れない……アンリエットが幸せになるのを見るまでは、絶っっっ対に……!!
眉間にこれでもか、としわを寄せてうんうん唸りながら、確実に自分の現状に気付いてない様子で、それこそ命がけくらいの必死さでもってつぶやいていた、らしい。
『最初は同じ名前の別の方かと思ったのだけど、その後の寝言を総合してみるとやっぱりわたくしのこととしか思えなくって』
「のわあああああああああっっ」
もはや聞いていられなくて、頭を抱えてその場で転げ回ってしまった。
よりにもよってご本人にオタクの煩悩まみれな寝言を聞かれてしまったとか、せっかく助かったのを今すぐにクーリングオフしたいほど恥ずかしい。絶対に今、顔どころか全身が真っ赤っかに茹で上がってるに違いない。
「お願い積み荷を、じゃなくて、いいいい今すぐ忘れて……っっ」
『ご、ごめんなさい、勝手に聞いてしまって……でもね、とっても嬉しかったのよ?
だって、いっしょに旅した仲間以外のひとがあんなに心配して、わたくしの幸せを祈ってくれるだなんて思いもしなかったから』
涙目で頼み込むわたしの背中をよしよし、とさすってくれつつ、そう言うアンリエットはふんわり微笑んでいた。それが何ともいえず嬉しそうで、まだ恥ずかしいのが勝っていたけどとりあえずごろごろするのは止めることにする。……うん、まあ、喜んでくれたんならいいか……
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