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第七章:
地獄(ゲヘナ)より愛をこめて⑪
しおりを挟む「――ほう、なるほどな。廉価版にしてはよく出来ておる」
『ほっ!』
何の前触れもなく、今ここにはいないはずの人の声がした。それもごくごく間近で。
「あっ、オズさんにほーちゃん! お帰りなさい!」
「あーっおじーちゃん遅い! こっち大変だったんだからーっ」
「はは、済まなんだな。急用ができて少しばかり遠出をしておったのよ」
「……少しですか? それ思いっきり旅装ですけど」
いつの間にか背後に立っていたのは、解説するまでもなく日頃からお世話になりまくりの元霊導師さんとその使い魔さんだった。
フィアメッタが指摘した通り、地味な色合いの丈夫そうなフード付きマントを着ていて、綺麗な顔がほぼ隠れてしまっている。本人はそれを気にした風もなく気楽に笑って、
「いやあ、それがな? 素顔でおったらまあ、行く先々でひとに捕まってまっすぐ歩くこともままならん。それで急遽用意しただけでな」
「…………そーですか」
『はいはい、君の容姿が人目を引くのはわかったから。それで? 目的のものは手に出来たんだろう?』
「おお、無論だとも」
やっぱりモテてたのか、このお兄さん。さらっと出てきたすごい発言を、グレイさんが華麗に流して話題を転換する。相手は軽くうなずいて、いつかやったみたいに利き手の指を鳴らした。すると、
ぶわっ!!
目と鼻の先に、真っ白い光のかたまり――いや、光に包まれた本が出現した。片手で持てるくらいの大きさで厚さは二、三センチ程度、表紙も中身もきらきら輝いていてとってもまぶしい。見るからにレアアイテムっぽさ満点のそれが独りでにぱらぱらっとめくれると、辺りが真昼みたいに明るくなった。
「察するにそちらの魔法具、魔力を対価に未来の経緯を書き換える、という部分だけ抽出したものだな? なるほど確かに好都合、筋書きそのものに手を加えれば、わざわざ現場に出向くこともない。ひとの生き筋は繋がっておるから、一部を変えれば他の部分も勝手に調節されて、都合の悪い記憶もなかったことになるだろうて。
ただひとつだけ誤算だったのは、我がたまたま此方についておったということだな」
「……え、う、うそうそ嘘! なんでオリジナルがここにあんの、ていうかあんた誰っ!?」
「さて、誰であろうな?――いざ参れ、『賢聖之書』」
カッ!!!
赤く濁った闇を切り裂いて、強烈な閃光が迸った。開いた本のページから飛び出した、不思議な模様――いや、びっしりと見慣れない文字が並んだ、光の帯みたいなものが宙を翔ていく。
爛々と輝いていた月をぶわあっと覆い隠した、と思った次の瞬間には、満月が跡形もなく消え去った静かな星空が広がっていた。
「ほれ、今が好機ぞ。月がなくなればあれの根性も続くまい、ついでに押し込んでしまえ」
「は、はははい!!」
なんかもうレベルが違いすぎて、ぽかんと口を開けたまま見物していたわたしは話を振られて飛び上がった。えっと、あれってヒルだよね!? で、わたしに言うってことは――
「フォーカス・魔王お化けヒル!! 『天理反転』っ!!」
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