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第七章:

地獄(ゲヘナ)より愛をこめて⑨

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 『――だりゃああああっ!!!』

 どぎゃあっ!!

 男前すぎる気合いの声とほぼ同時、聞くからに痛そうな音がした。間髪いれずにごおっという風鳴りをつれて、なにか巨大なものがむき出しになった元・寝室のすぐ横を通過する。おそるおそる顔を出してみると、

 「アルバスさん、と……うげ」

 「うーわ気色悪! うちの魔王ってあんなんなわけ!?」

 「そりゃ問答無用で倒しにいくよね~」

 女子トリオにさんざんな評価をもらったとおり、ドラゴン化した盗賊さんに一撃くらって、土煙を上げて転がっていく魔王(仮)は、濁った色合いの蛇のような姿をしていた。

 ただし鱗どころか目鼻すらないのっぺらぼうで、ぬめっとした粘膜みたいなものが身体を覆っている。大きさは全長十メートルクラスの大怪獣レベルだけど、夏の林間学校で出くわしたヒルに見た感じがよく似ていた。

 ……エトクロのラスボスだった魔王様、あれはあれでド迫力だったが、外見上のインパクトは間違いなくこっちが上だ。ていうか正直にいって気持ち悪い。直接殴るとか蹴るとかは断じてごめん被りたいです、はい。

 が、しかし。

 『こらリック、いつまでビビってやがる!! いー加減に決めてこいっ』

 「あああもう、分かってるってば! 『双翼秘刃』・風雪散華ーっっ」

 「よっしゃスコール、真下からドカーンと行けー!!」

 「はいっ!! 『双撃神速』・黒龍翔!!」

 ごばあ!!!!

 『ぶぎゃあっ!!』

 若干引きつり気味なりっくんの叫びと共に猛吹雪が巻き起こった。もろに食らって瞬く間に真っ白に凍っていくヒル目掛けて、飛び込んだスコールくん渾身の蹴りがお腹辺りにメガヒット!

 その拍子になんかねばっとしたものが飛び散って、見てる方はひいっとなったけど、絶賛攻撃中の皆さんは気にしちゃいない。

 『行ったぞ殿下、思いっきりやれ!!』

 「わかった、叩き落とす。――『聖剣降臨レーヴァテイン』・斬」

 ざしゅあっ!!

 半分フローズン状態で宙を舞っていたヒル目掛けて、レオナールさんが叩き込んだのは光線――じゃなくて、自前の剣にまとわせた光の刃だった。

 (うわーっ必殺技キター!!)

 見た目も名前も派手なこれが、この人の生得魔法だ。王家に代々伝わってきた聖剣とセットになることで真価を発揮し、実体のあるなしを問わずほぼすべてのものを一刀両断、浄化することができる。

 その分消費も激しくて、レベルを最大まで上げても一回の戦闘で二、三回出すのが限界という、文字通りの最終兵器だった。画面越しでも相当カッコよかったが、まさか目の前で見れる日が来ようとは!

 「――次で決めてくれ。時が惜しい」

 「承った! 『波濤千変』終の段――」

 宣言通り地面に叩きつけられたお化けヒル、しかしまだまだ元気にもがいている。そこへ満を持して進み出たのは――待ってました、うちのリーダーです!

 「――晩霞ばんか碧一閃へきいっせん

 ザン!!!

 今までで一番鋭い音がした、と思った瞬間、ヒルが頭から真っ二つになってその場にひっくり返る。

 それを尻目に、いつの間にか刀を抜いてたショウさんは軽く得物を払ってから鞘に納めてたんですが、……ええと、いまいつ斬りましたか……?

 名前と構えから察するに、おそらく居合切りだ。が、これだけ離れてても斬った瞬間が全く見えなかった。やられた当の本人は何が起こったかわかってないだろう。強いなーカッコいいなーといつも思ってはいたけど……

 「あの、若旦那ってすごいんだね……?」

 「そーよ、スゴイの。なに、ホレ直した?」

 「あ、うん。そんな感じです、はい」

 「「いえーい!!」」

 まだ目が点になってるだろうなーと自覚しつつうなずくと、女子コンビが満面の笑みでぱーん、とハイタッチしていた。嬉しそうで何よりです。
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