上 下
162 / 372
第七章:

地獄(ゲヘナ)より愛をこめて⑥

しおりを挟む




 一瞬だけ意識を飛ばしていた、らしい。

 『――ああ、よかった。気が付いたね』

 「ふぇ……?」

 『粉塵爆発といってね、封鎖された空間に可燃性の粉が一定以上の密度で存在する――まあ早い話が先程のような状態に、火種を放り込むことで急激に燃焼して爆発に近い状態になる。
 煤塵が舞う鉱山とか、小麦を挽いている小屋なんかで事故が起こりやすいかな』

 目を開けたら、すぐそばにいたグレイさんがほっとした様子で声をかけてくれた。分かりやすく解説してくれつつ、どうやら床に座ってひざを貸してくれているみたいで、カーテンみたいに落ちかかるウェーブヘアの向こうから夜空が覗いてるのが見え――って!

 「なんで空!? ……あいたたた」

 『急に動かない方がいいよ。炎と爆風はリラお嬢さんが防いでくれたけれど、あの轟音だからね。頭痛がするだろう』

 「ふ、ふぁい、めっちゃ痛いです……」

 『ふぃっ』

 「あ、リーシュ、大丈夫だった?」

 『ふぃーふぃ!』

 跳ね起きたとたんにぐわん、とめまいと頭痛が襲ってきてふらふらする。背中をさすってもらってたら、わたしのひざにびょんと飛び乗った小鳥さんが訴えるように鳴いてきた。

 こっち見てーと言われた気がして目を向けると、白い羽毛が内側からぽーっと淡く輝いて、

 「――あっ、痛くなくなった! 今のリーシュがやってくれたんだよね、すごい!」

 『ふぃっ♪』

 『うん、さすがはカラドリウスだね。病やケガの治癒で彼らに叶う者はそういないよ。
 まああれだけの爆発が起こって、黒幕と君以外に被害がなかったというのもすごい話なんだけれど』

 「そうだ、そういや他のひとたちは!?」

 見事に本領発揮してくれたリーシュを全力でもふもふしてあげてたら、やっと直前のことを思いだした。あわてて確認すると、グレイさんがほら、とある方向を指し示してくれる。そっちに目をやったところ、

 「……うわあ」

 思わず、ヒキガエルみたいな声で呻いてしまった。

 さっきまで毒切が充満していた薄暗い部屋は、ものの見事に壁と天井が吹っ飛んでいた。星……は、なんでか知らないけど昇ってる真っ赤な満月のせいでほぼ見えないけど、とりあえずさっきも見た夜空が広がっている。

 ズタボロになった壁と窓からは未だに煙が上がっていて、奥にあったベッドは見るも無残に真っ黒焦げの状態だ。そんな中、やたら生き生きと動き回っているひとたちがいた。

 「よしっ、捕縛完了! みんなが来るまで重石係お願いね、ドゥーさん」

 『ひぽっ!』

 「はーいフィア、ケガの治癒も終わったよー」

 「はいお疲れ! 相変わらず仕事が早くて助かるわ!」

 『リラちゃんおつかれさま~』

 ヒロインにあるまじき白目をむいた顔で気絶しているリュシーもどきと、その上にどどんと鎮座ましましているドゥードゥーさん。回復魔法の名残でぽわぽわ手のひらが光ってるリラ、そんな功労者ふたりを元気よく労うフィアメッタにティノくん。

 ……いたってほのぼのしいはずなんだけど、背景とここに至るまでの経緯があいまって非常にカオスな光景だった。

 『うんうん、さすがは現役冒険者だね。手際の良さがすばらしい』

 「ああああああの、りりり離宮、ここここ王家の持ち家……!!」

 『ん? ああ、大丈夫だよ。不敬罪というものは廃止されて久しいから』

 「そういう問題じゃなくてですね!?」

 『平気だから落ち着きなさいって。あとでに頼めば、新築以上の状態に復元してくれるから。――それより
ほら、君にこれを見てほしいんだけれど』

 やらかした!! と一気にパニックになるわたしに(だって仕方なくない!?)、あくまで落ち着いてるグレイさんが衣装の懐から何か取り出してきた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。 与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。 そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。 「──誰か、養ってくれない?」 この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

封魔剣舞 - 倒した魔物を魔石化する剣技と「魔石ガチャ」で冒険者無双 -

花京院 光
ファンタジー
十五歳で成人を迎え、冒険者になる夢を叶えるために旅に出たユリウスは「魔石ガチャ」を授かった。魔石は魔物が体内に秘める魔力の結晶。魔石ガチャは魔石を投入してレバーを回すと反則級の魔法道具を作り出す力を持っていた。 ユリウスは旅の途中で「討伐した魔物を魔石化する力」を持つ剣士に弟子入りし、魔石化の力を得た。 魔物を討伐して魔石を集め、ガチャの力で魔法道具を量産し、最高の冒険者を目指しながら仲間達と成り上がるハイファンタジー小説です。 ※完結まで毎週水曜、土曜、十二時に更新予定。 ※タイトルの読み方は封魔剣舞(ふうまけんぶ)です。 ※小説家になろうでも掲載しております。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す

SO/N
ファンタジー
主人公、ウルスはあるどこにでもある小さな町で、両親や幼馴染と平和に過ごしていた。 だがある日、町は襲われ、命からがら逃げたウルスは突如、前世の記憶を思い出す。 前世の記憶を思い出したウルスは、自分を拾ってくれた人類最強の英雄・グラン=ローレスに業を教わり、妹弟子のミルとともに日々修行に明け暮れた。 そして数年後、ウルスとミルはある理由から魔導学院へ入学する。そこでは天真爛漫なローナ・能天気なニイダ・元幼馴染のライナ・謎多き少女フィーリィアなど、様々な人物と出会いと再会を果たす。 二度も全てを失ったウルスは、それでも何かを守るために戦う。 たとえそれが間違いでも、意味が無くても。 誰かを守る……そのために。 【???????????????】 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー *この小説は「小説家になろう」で投稿されている『二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す』とほぼ同じ物です。こちらは不定期投稿になりますが、基本的に「小説家になろう」で投稿された部分まで投稿する予定です。 また、現在カクヨム・ノベルアップ+でも活動しております。 各サイトによる、内容の差異はほとんどありません。

無属性魔法を極めた俺は異世界最強!?

ないと
ファンタジー
異世界に行きたい ずっとそんな事を願っていたある日、俺は集団転移に遭ってしまった。 転移すると周り中草木が生い茂っている森林の中で次々とモンスターが襲ってくる。 それに対抗すべく転移した人全員に与えられているらしいチート能力を使おうとしたのだが・・・・・ 「魔法適正が『無』!?」

闇属性は変態だった?〜転移した世界でのほほんと生きたい〜

伊藤ほほほ
ファンタジー
女神によって異世界へと送られた主人公は、世界を統一するという不可能に近い願いを押し付けられる。 分からないことばかりの新世界で、人々の温かさに触れながら、ゆっくりと成長していく。

悪役令嬢に転生してしまったが、魔法チートで冒険者目指します。

Haruru
恋愛
ブラック企業で働いていた篠原由紀は、ふらついて車道に出てしまいトラックに轢かれてしまい亡くなった。 …はずだった。 「何でよりによって悪役令嬢のロゼリア・ロッテンシュタインに転生したの!?」 そこは前世での親友がめちゃくちゃハマっていた「夜空にきらめく恋」、略して「夜恋」の世界だった。 絶対に悪役令嬢で処刑エンドは嫌! でも、この世界では魔法があるし、冒険者ギルドに登録している貴族も珍しくない!私、きっと悪役令嬢なんかじゃなくて立派な冒険者になって見せる! ※不定期更新です。感想も作品を創作する支えとなりますので、気が向いたら書いてもらえたらありがたいです。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。

処理中です...