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第七章:
地獄(ゲヘナ)より愛をこめて⑥
しおりを挟む一瞬だけ意識を飛ばしていた、らしい。
『――ああ、よかった。気が付いたね』
「ふぇ……?」
『粉塵爆発といってね、封鎖された空間に可燃性の粉が一定以上の密度で存在する――まあ早い話が先程のような状態に、火種を放り込むことで急激に燃焼して爆発に近い状態になる。
煤塵が舞う鉱山とか、小麦を挽いている小屋なんかで事故が起こりやすいかな』
目を開けたら、すぐそばにいたグレイさんがほっとした様子で声をかけてくれた。分かりやすく解説してくれつつ、どうやら床に座ってひざを貸してくれているみたいで、カーテンみたいに落ちかかるウェーブヘアの向こうから夜空が覗いてるのが見え――って!
「なんで空!? ……あいたたた」
『急に動かない方がいいよ。炎と爆風はリラお嬢さんが防いでくれたけれど、あの轟音だからね。頭痛がするだろう』
「ふ、ふぁい、めっちゃ痛いです……」
『ふぃっ』
「あ、リーシュ、大丈夫だった?」
『ふぃーふぃ!』
跳ね起きたとたんにぐわん、とめまいと頭痛が襲ってきてふらふらする。背中をさすってもらってたら、わたしのひざにびょんと飛び乗った小鳥さんが訴えるように鳴いてきた。
こっち見てーと言われた気がして目を向けると、白い羽毛が内側からぽーっと淡く輝いて、
「――あっ、痛くなくなった! 今のリーシュがやってくれたんだよね、すごい!」
『ふぃっ♪』
『うん、さすがはカラドリウスだね。病やケガの治癒で彼らに叶う者はそういないよ。
まああれだけの爆発が起こって、黒幕と君以外に被害がなかったというのもすごい話なんだけれど』
「そうだ、そういや他のひとたちは!?」
見事に本領発揮してくれたリーシュを全力でもふもふしてあげてたら、やっと直前のことを思いだした。あわてて確認すると、グレイさんがほら、とある方向を指し示してくれる。そっちに目をやったところ、
「……うわあ」
思わず、ヒキガエルみたいな声で呻いてしまった。
さっきまで毒切が充満していた薄暗い部屋は、ものの見事に壁と天井が吹っ飛んでいた。星……は、なんでか知らないけど昇ってる真っ赤な満月のせいでほぼ見えないけど、とりあえずさっきも見た夜空が広がっている。
ズタボロになった壁と窓からは未だに煙が上がっていて、奥にあったベッドは見るも無残に真っ黒焦げの状態だ。そんな中、やたら生き生きと動き回っているひとたちがいた。
「よしっ、捕縛完了! みんなが来るまで重石係お願いね、ドゥーさん」
『ひぽっ!』
「はーいフィア、ケガの治癒も終わったよー」
「はいお疲れ! 相変わらず仕事が早くて助かるわ!」
『リラちゃんおつかれさま~』
ヒロインにあるまじき白目をむいた顔で気絶しているリュシーもどきと、その上にどどんと鎮座ましましているドゥードゥーさん。回復魔法の名残でぽわぽわ手のひらが光ってるリラ、そんな功労者ふたりを元気よく労うフィアメッタにティノくん。
……いたってほのぼのしいはずなんだけど、背景とここに至るまでの経緯があいまって非常にカオスな光景だった。
『うんうん、さすがは現役冒険者だね。手際の良さがすばらしい』
「ああああああの、りりり離宮、ここここ王家の持ち家……!!」
『ん? ああ、大丈夫だよ。不敬罪というものは廃止されて久しいから』
「そういう問題じゃなくてですね!?」
『平気だから落ち着きなさいって。あとで設計者に頼めば、新築以上の状態に復元してくれるから。――それより
ほら、君にこれを見てほしいんだけれど』
やらかした!! と一気にパニックになるわたしに(だって仕方なくない!?)、あくまで落ち着いてるグレイさんが衣装の懐から何か取り出してきた。
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