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第七章:
ナイトガウンを着た悪魔⑦
しおりを挟む『ひっぽひっぽ!!』
「……ふぁ?」
ものすごく近くで、特徴的すぎる鳴き声が聞こえる。妙に覚えがあるなぁと寝ぼけ眼で起き上がったフィアメッタは、
「うわあ!? えっなに、どしたのドゥーさん!」
『ひぽーっ』
いきなり視界いっぱいに広がっていた鳥さんのドアップに、悪いとは思いつつ叫んでしまった。
つい最近保護した魔法生物の一羽で、もふっとした若草色の羽根と下向きに曲がった巨大なくちばしがトレードマークのドゥードゥーだ。
鳥には珍しく夜行性で、日が落ちかかるくらいから元気よく動き回っているのを毎日のように見ていたから、夜中の時間帯に起きているのについてはなにも不思議じゃない。
が、ごく自然に目が覚めたにしては様子がおかしかった。フィアメッタの問いかけに行動で答えるつもりなのか、服の袖口をくわえてぐいぐい引っ張る。誘拐犯への報復を見て知ってはいたが、あまりにも力が強いのでつんのめってベッドから落ちそうになった。
「あっこら、危ないって! 騒いだらイブマリーまで起きちゃうでしょ……て、あれ!?」
思わず声が高くなる。部屋の向かい側に据えられたベッドから、この子たちがいちばんなついている友人の姿が消えていた。
元々寝付きがよくて、ここのところ立て続きだったイベントと事件で疲れが溜まっているのもあってか、一旦寝入ったら朝までぐっすりだったというのに。
『こんこん』
「……あれー? こんちゃん、イブは??」
『こんっ』
こちらは火狐にしっぽでぽふぽふされたリラが、やはり向かい側に目をやって不審そうな顔をする。こちらもいつ出ていったのか知らないようだ。嫌な予感がますます強くなる。
「リラ、目は覚めてる!? すぐ追いかけるわよ!!」
「う、うん! でもフィア、どこいったかわかる!?」
「ドゥーさんたちが知ってるみたい、案内してもらいましょ! 頼んだわよ!!」
『ひぽーっ!』『こんこん!!』
高速で身支度を整えながらの頼みに、日中はケンカしていたはずの魔法生物たちは息ぴったりに返事すると、そろって部屋を飛び出した。
リーシュに引っ張られるまま跳び退いたおかげで、翻った布に顔を叩かれなくてすんだ。何がなんだかわからないながらもホッとした瞬間、
「……うげ、臭っ」
『うわーん! はながくさる~~~っ』
『ふぃ~~~!』
とんでもない異臭が鼻を突いた。今まで嗅いだことがないくらい、本当に強烈に生臭い。
無理やりたとえるなら……そう、真夏にお世話をサボったせいで藻が繁殖しまくって緑色に濁った、メダカとかを飼ってる水槽の水? アレを数百倍に濃くしたらこんな感じになりそうだ。ティノくんたちが半泣きになってるのが気の毒で、よしよしと撫でてあげていたら、
「――ちょっと! なに悠長に臭がってんのよ、他に言うことがあるでしょ!?」
臭いと同様、耳に突き刺さるような苛立った声を上げたのは、ベッドの上に仁王立ちした人物だった。
さらさらした布地で見るからに高級そうなナイトガウン、つまり寝巻きを着ていて。肩甲骨の辺りでふわっとカールした髪は柔らかな桜色、こっちをこれでもかとばかりに睨み付けている大きな瞳は、アクアマリンみたいな透き通った碧色だ。
清楚で可憐で繊細で、思わず守ってあげたくなるような絶世の美少女。わたしがこっちに来るまでの約一ヶ月間、イヤと言うほど毎日見続けた『エトクロ』のヒロインにして救国の聖女様――
「ふん、何よその顔。助けに来たはずのお友達に裏切られてショックだって? 好きなだけ傷つきなさい、それが元で死ねばいいわ!!
いっそこの手で地獄に送ってあげる、このあたし、リュシー・プリマヴェーラがね――!!!」
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