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第七章:
ナイトガウンを着た悪魔①
しおりを挟むふっと目が覚めた。
辺りはまだ真っ暗で、夜明けの気配すらない。ぼーっとしながら視線を巡らせると、暖炉の上の置き時計が午前二時過ぎを指していた。草木も眠る丑三つ時ってやつだ。
明日は新月だから、晴れててもほとんど明かりが届かないだろうな。星降峰では満点の星が見事だったけど、こっちは平地で海沿いだ。やっぱり見え方が違うんだろうか……
(……そういやこっちの王子様、大丈夫だったかな)
まだぼんやりした頭で寝返りを打ちながら、わたしは夕飯時のことを思い出していた。
「――戻れない? マクシミリアンがか」
「は、はい。火急の要件ゆえ、至急王都へ帰還されたし、との御言伝でして」
お忍びで泊まる殿下たちのために、食材その他はみんな前棟に運び込んである。
会食も公務の一部だからということで、食堂の中も大変豪華な設えになっていた。純白の大理石に金彩を施した壁と、ふっかふかの緋色の絨毯が目にまぶしい。
ついでに照明が魔法の明かりを灯したシャンデリア二基なので、クリスタルガラス(たぶん)に光が反射してきらきらするのがゴージャスかつロマンチックでもある。現代の蛍光灯じゃこうはいかない。
そんな空間で、楽々二十人以上が座れそうな長いテーブルに並んで腰かけて。ちょっと控えめにわいわいやりながら夕食をいただいていたわたしたちのところに、慌てた様子で侍従さんのひとりが走ってきたのは、たぶんもうすぐ七時になるくらいだったと思う。
わざわざ席を立って出迎えたレオナールさんがほんの少しだけ戸惑った声で繰り返すと、知らせを持ってきてくれたひとは申し訳なさそうに頭を下げた。まだ若い、ぱっと見はアルバスさんとかフェリクスさんくらいの歳に見える男の人だ。穏やかな顔立ちを曇らせて、
「本日の公爵邸への訪問は、王城でもごく一部にしか知らされておりません。直接伝令が届いたとなると、相応の一件かと」
「いつ頃戻れるかというのは……わからないだろうな、やはり」
「申し訳ございません、ご本人も出来る限り速やかにとは仰っておられましたが……」
「良い、お前の責任ではない。伝令ご苦労だった」
「は……」
穏やかに労う言葉を受けて、深く一礼した侍従さんは立ち去って行った。
離宮と公爵さんのお邸は街を挟んでちょうど反対側にある。たぶん飛行系の魔法を使ったと思うけど、日が落ちかかる中での移動は大変だっただろう。
お疲れさまです、と、ぴんと背筋の伸びた後ろ姿に心でお礼を言っていたら、戻ってきた殿下が席に着くなり腕を組んだ。またしても分かりにくいが、少しばかり細められた蒼い目を見るに困っているみたいだ。この人がわずかでも表情を崩すなら、きっとかなり。
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