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第七章:
縁は異なもの転がるもの①
しおりを挟む「――おお、客人は無事についたか。それは重畳」
風霊から通信を受け取って、きょうもギルドで調べものに励んでいたオズヴァルドはほっと表情を緩めた。
ついでに軽く伸びをして肩を動かしてやると、小さくぱきぱきと音がする。長時間同じ体勢を取っていたせいで凝ってしまったな、これは。
「文章を追うのは苦にならんのだがなぁ。こうも連日となると、流石にちと疲れる」
『ほー』
「案ずるな、言ってみただけだ。まだまだやることがあるからな」
足元で心配そうにするホーリィの頭を、よしよしと撫でてやって立ち上がる。
こうして報せが届いたということは、打ち合わせた通りにことが運んでいるという証明だ。全部とはいかないがそこそこの証拠は集まった、あとは現地調査といこう。
「さて、久方ぶりの遠出だ。楽しむとしようぞ」
さて、一方の離宮である。
「ったく、まーたやらかしたんスかアンタは」
「どうやらそうらしい。面目ない」
「いや、謝るこっちゃねえんですけど、オレらがいない間に本国でもなんかしてないだろうなーとか」
「……大丈夫だ、たぶん」
「おいこら何目ぇそらしてやがる」
「うちの殿下に関してはいい加減適当にあきらめた方がいいよ、君は」
呆れ半分のしかめっ面で追及するアルバスさんを、こっちもため息混じりの近衛騎士さんがなだめている。りっくんがフォローに回ってるのは珍しいな。
場所は離宮の前半分、王族の皆さんが執務に使う棟の応接間だ。さっきまでいた私的な空間よりさらに豪華絢爛かつ上品な設えになっているその部屋で、改めて向かい合ってるわたしたちがいた。
といっても、文字通りの全員ではない。オズさんは相変わらず調べもの、フェリクスさんはまた別に確かめることがあるとかで朝から外出中で、あとから合流することになっている。そしてさっき来たばかりのランヴィエル御一行にも、残念ながらすぐは集まれなかったひとたちがいた。
「マクシミリアン――グローアライヒの太子は領主の館に先行している。非公式とはいえ王族の滞在だ、仁義を切らねばと言っていた」
「律儀な方なんですね」
「うん、あれは見習いたいところだ」
「殿下はもう十分真面目ですよ。むしろもっと肩の力を抜いてもらった方がいいくらいです」
「……そうだろうか」
「はいっ」
わたしがにこっとすると、また軽く首を傾げて『そうか』とつぶやくレオナール殿下だ。見た目は完璧すぎる美青年なんだけど、妙に仕草があどけなくて小動物っぽい。微笑ましくてついついにやけてしまう。
後ろからちょんちょん、と肩を突っつかれて振り向くと、ソファの後ろに立ってる『紫陽花』メンバーがいる。そのうちこれでもか、と思いっきり身を乗り出しているリラがひそひそ聞いてきた。
「ねえねえイブ、ランヴィエルの王子様ってすっごいカッコいいのに、ちょっと可愛いね? なんかこう、ほっとけない感じ?」
「ちょっとリラ!」
「ああ、それか。気持ちの表現が控えめなんだよね、慣れてくると分かりやすいんだけど」
声は抑えてるけどわりと遠慮のない感想に、横にいたフィアメッタがあわてている。大丈夫だよーと言おうとしたら、
「生まれつき表情が動きにくい体質らしい。一族は大体そのようだが、おれは話すことも不得手だから、よく周りに叱られる。解りにくいし紛らわしいと」
「は、はあ、そうなんですか……大変ですね、なんか」
本人がわざわざ解説してくれた。淡々とした言い方なのでつっけんどんにも感じるが、蒼い目はふわっと柔らかく和んでいる。冗談混じりに言ってる感じだな、これは。
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