135 / 372
第七章:
王子が来たりて笛を吹く①
しおりを挟む
きれいな紅い毛並みを梳いてあげると、しゅっしゅっと小さな音がする。温かくてふわふわしてて、触り心地は文句なしにバツグンだ。
「どうですかーお客さん。痛くないですかー」
『こんこん』
「どうもー。気になるとこがあったら教えてね~」
『こんっ♪』
どこかの美容院みたいな声かけをするわたしのひざの上で、ご機嫌でしっぽをゆらゆらさせているのは真っ赤なキツネさん。火狐っていう種類で、生まれた時からお腹の中で火が燃えているんだそうだ。カイロとかアンカを抱っこしているみたいにぽかぽかするので、気を抜くと眠くなりそうだなぁ、これ。
が、しかし。
『うきゅ~~~』
『ひんひん』
『まーまま~~』
『ごしゅじーん、みんな自分もしてーっていってるよ~』
「はいはーい、順番ね。もうちょっと待っててね」
「すっかり懐かれたわねぇ、あんた」
「あはは、イブの周りが森の中みたいになってるー」
そろってやってきてブラッシング待ちしている小動物たち、という光景を、同じ部屋でくつろいでいる『紫陽花』女子メンバーがのほほんと見守っていた。
ランヴィエルとグローアライヒ、二国にまたがる魔法生物誘拐事件を解決してから、早くも数日が経った。今は交代で離宮を管理、というか警備みたいなことをしつつ、あとから来る人たちを待っているところだ。
冒険者ギルドには、捕まえた犯人を突き出すと同時に報告済み。事情を説明しに行ったらものすごく誉められてしまい、依頼料の他にもいろいろもらえることになった――らしい。直接連行したのは元パーティトリオとオズさんなのでまた聞きだけど、大変な騒ぎになってたようである。なんか申し訳ない。
ちなみに誘拐された小動物の皆さんはというと。早いとこ戻してあげたいのは山々なんだけど、誰がどこからどのくらい来たのかを確認しないと、全員無事に帰ったかどうかが分からない。犯人に聞き取りつつ確認する必要があるため、とりあえずここで預かることになったのだ。
それはまあいいのだ。小動物は大好きだし、他のメンバーも快諾してくれたから。ただ問題というか、予想外だったのは……
『……ひっぽ~~~』
「あ、おはよドゥーさん。今日もでっかいねぇ」
『ぽ~~~~』
特徴的な鳴き声がして、ふっかふかの羽毛に包まれた鳥さんが登場した。これまた避難通路に隔離されてた魔法生物さんである。
この子は鳥にしては珍しく、夜中に活動していることが多い。なので昼間はいつも眠そうで、よちよちふらふら歩き回ってはどこかしらにぶつかっている。なにせ横も縦も大きいから、当たり判定がでっかくてちょっと気の毒になってしまう。
「……大丈夫? こっち来て座ったらいいよ、ほら」
『ひぽ~……』
ここにいる子たちの大半は言葉をしゃべれないが、こっちの言うことはちゃんと理解できる。ちょいちょいと手招きしたら素直に寄ってきて、もふっと火狐と反対側のひざに突っ伏した。やっぱり眠かったようだ。……が、
『こんこん!』
ぼっふあ!
『ひぽっ!?』
「あっこら! めっ」
『こんっっ』
「頬っぺた膨らましてもダメだから! ケンカしないの」
そのとたん、キツネさんが振り回したしっぽが、ドゥードゥーの顔面を直撃した。大きくてフカフカなだけに破壊力がありそうでかわいそうだ。
……そう、これ。こんな感じで、なぜかわたしの周りで小動物さん同士の小競り合いが多発する、という事態が起こっていたりするのである。
「どうですかーお客さん。痛くないですかー」
『こんこん』
「どうもー。気になるとこがあったら教えてね~」
『こんっ♪』
どこかの美容院みたいな声かけをするわたしのひざの上で、ご機嫌でしっぽをゆらゆらさせているのは真っ赤なキツネさん。火狐っていう種類で、生まれた時からお腹の中で火が燃えているんだそうだ。カイロとかアンカを抱っこしているみたいにぽかぽかするので、気を抜くと眠くなりそうだなぁ、これ。
が、しかし。
『うきゅ~~~』
『ひんひん』
『まーまま~~』
『ごしゅじーん、みんな自分もしてーっていってるよ~』
「はいはーい、順番ね。もうちょっと待っててね」
「すっかり懐かれたわねぇ、あんた」
「あはは、イブの周りが森の中みたいになってるー」
そろってやってきてブラッシング待ちしている小動物たち、という光景を、同じ部屋でくつろいでいる『紫陽花』女子メンバーがのほほんと見守っていた。
ランヴィエルとグローアライヒ、二国にまたがる魔法生物誘拐事件を解決してから、早くも数日が経った。今は交代で離宮を管理、というか警備みたいなことをしつつ、あとから来る人たちを待っているところだ。
冒険者ギルドには、捕まえた犯人を突き出すと同時に報告済み。事情を説明しに行ったらものすごく誉められてしまい、依頼料の他にもいろいろもらえることになった――らしい。直接連行したのは元パーティトリオとオズさんなのでまた聞きだけど、大変な騒ぎになってたようである。なんか申し訳ない。
ちなみに誘拐された小動物の皆さんはというと。早いとこ戻してあげたいのは山々なんだけど、誰がどこからどのくらい来たのかを確認しないと、全員無事に帰ったかどうかが分からない。犯人に聞き取りつつ確認する必要があるため、とりあえずここで預かることになったのだ。
それはまあいいのだ。小動物は大好きだし、他のメンバーも快諾してくれたから。ただ問題というか、予想外だったのは……
『……ひっぽ~~~』
「あ、おはよドゥーさん。今日もでっかいねぇ」
『ぽ~~~~』
特徴的な鳴き声がして、ふっかふかの羽毛に包まれた鳥さんが登場した。これまた避難通路に隔離されてた魔法生物さんである。
この子は鳥にしては珍しく、夜中に活動していることが多い。なので昼間はいつも眠そうで、よちよちふらふら歩き回ってはどこかしらにぶつかっている。なにせ横も縦も大きいから、当たり判定がでっかくてちょっと気の毒になってしまう。
「……大丈夫? こっち来て座ったらいいよ、ほら」
『ひぽ~……』
ここにいる子たちの大半は言葉をしゃべれないが、こっちの言うことはちゃんと理解できる。ちょいちょいと手招きしたら素直に寄ってきて、もふっと火狐と反対側のひざに突っ伏した。やっぱり眠かったようだ。……が、
『こんこん!』
ぼっふあ!
『ひぽっ!?』
「あっこら! めっ」
『こんっっ』
「頬っぺた膨らましてもダメだから! ケンカしないの」
そのとたん、キツネさんが振り回したしっぽが、ドゥードゥーの顔面を直撃した。大きくてフカフカなだけに破壊力がありそうでかわいそうだ。
……そう、これ。こんな感じで、なぜかわたしの周りで小動物さん同士の小競り合いが多発する、という事態が起こっていたりするのである。
0
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる