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第六章:
レディ・グレイの肖像⑧
しおりを挟むこっちも聞こえたらしいリックが、そばに浮かべていた魔法の明かりを高めにかざす。しばらく待っていると、周りの様子がぼんやり分かってきた。
やっぱり同じ石畳で出来た長方形の空間で、広さは……たぶん、現代で通ってた高校の教室くらいだ。天井の高さもそんなところだと思う。他には明かりがひとつもないから圧迫感がすごくて、実際よりもずいぶん狭く感じるけど。
――いや、訂正。ごくわずかだけど、光はあった。
「……なに、これ」
どうにか押し出した声が、自分のだとは思えないくらい低くてかすれている。そのくらい、目の前の光景がとんでもなかったのだ。
薄明りにぼんやり浮かぶ石畳には、暗い紅で大きな図形が描かれていた。その線がぼうっと仄かに光を放っている。
とにかく細かくて入り組んでいて、何をモチーフにした絵なのかはさっぱり分からない。でもよく目を凝らすと、だいたい円形でフチの方に栓が集中していて、真ん中に行くにつれて空間が空いているのが分かった。
現世で『エトクロ』のゲームをやり込んでいた頃から数えきれないくらい見てるから間違いない。これは魔法陣だ。そして何より衝撃だったのは、その空けてある中心部にうずくまっている影があることだった。
「……女性、かな」
「たぶん。わたしもそう思う」
目を眇めてつぶやくリックの顔が険しい。それに頷き返して、再びそちらに目をやった。
魔法陣を構成している赤黒い光は、それぞれの図形の端から放射状に中心へ集まっている。その行きつく先で微動だにせず、跪くような体勢で固まっているのは、たぶん髪の長い女の人だ。
たぶんというのは他でもない。暗いのに加えて、頭からすっぽりとフードの付いたマントを被っているからだ。そしてぼやっとした濃い灰色らしき布とか、床に流れている長い服の上から、集まった紅い光が蜘蛛の巣みたいに覆いかぶさっているのが分かった。
なんなんだ、これ。どう見たって無理やり拘束されているとしか思えないし、何より魔法陣とか蜘蛛の巣っぽいネットとかが気色悪すぎる!
『まー! まままっ』
思わずぎゅっと両手を握ったとき、肩にちょこんと乗っかっていたマンドラゴラが急に叫んだ。ぱっとジャンプして魔法陣に飛び込むと、迷わず一直線に女の人目掛けて走っていく。あっこら、そんな無鉄砲な!
一瞬ヒヤッとしたけど、幸い何事も起こらなかった、ようだ。目的地に到着した激レアさん、俯いて石像みたいに動きを止めている相手にまーまーと何かを訴える。すると、
《――おお、お前だったか。連れてきてくれたのだな》
『まー!!』
さっきと同じ声がした。十中八九、真ん中のひとがしゃべったんだろうけど、なんだか妙な感じがする。これだけ広い空間でけっこう離れているのに、すぐ目の前で話しているみたいにはっきりした声だ。高くも低くもなくて、耳当たりのいいきれいな声だった。
《――このような形で済まない。見ればわかると思うが、いまは身動きを取ることが出来ないのだ。ゆえにこの者に助けを呼んでもらった。
どうか、この戒めを解いてはもらえまいか》
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