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第六章:
白亜城の思い出⑤
しおりを挟む「――あのー、お二人さん? そろそろいいかな、その子だいぶ苦しそうなんだけど」
「うわっホントだ! 大丈夫!?」
「ごめん、力の入れ方間違えたーっ」
「……い、いや、なんとか平気だから。うん」
『びっくりしたさ~』
「ああっごめん! イオンちゃんもごめんー!!」
頃合いを見計らって話しかけてくれた引率者により、無事窒息の危機から脱することが出来たわたしだった。ありがとうりっくん。
そんな微笑ましいやり取りを交えつつ、再び長い通路を歩き続けること数分。
何度か角を曲がり、これまた大理石でできた渡り廊下を通って、一同がたどり着いたのは独立した棟だった。先ほどまでいた最初の建物と同じくらい豪華だけど、なんとなく雰囲気が違う気がする。しばらく移動してみて、ようやくその原因がわかった。
「ねえ、さっきのとこより像とかレリーフが多くない?」
「……うん、そういやそうね。どこの部屋にもひとつはある感じ」
『あー、あっちにまやーがいるさー』
「イオンちゃん、まやーってなあに?」
『んとねぇ、ネコちゃんのこと~』
リラに聞かれてきちんとお返事してくれたとかげさんの言うとおり、ちょうど通りかかった廊下の端に小ぶりな像が置いてあった。全身真っ白のそれは、どうやらエントランスと同じく大理石を彫って作られているみたいだ。今にも動き出しそうな本物そっくりの猫が、差し込む太陽に涼しそうな光沢を放っている。
そういやここまで見てきた像やレリーフも、馬とか鹿とかうさぎとか。あるいは鳥とか魚とか、人間以外のさまざまな生き物の姿をかたどったものばかりだった。
確かさっきの説明だと、奥側にある建物は王様の家族が過ごす私的な空間のはずだ。ここを作ったとき、ご家族の誰かに動物好きな人がいたんだろうか。
「……いや、ホントよく見てるね。初めて来る場所でそこまで気付けるもんじゃないよ」
「そうかなぁ。りっくんは何か知ってたりする?」
「さあ? さすがに内装のコンセプトまではね。ただこうかな、っていう仮説なら立てられるけど」
「え、ほんと? どんなの?」
「はいはいっ、私も聞きたいです先生ー」
『あーい、イオンも~~~』
「本とノリが良いわよねえ、あんたたち」
そろって元気よく手を挙げたわたしたちに、フィアメッタがやれやれと軽くツッコミを入れている。そんな一同に、リックはいたって機嫌よさそうに笑って頷いてくれた。ゲームでもそうだったけど、こうやって人から頼られたときってとっても嬉しそうなんだよな、このひと。
「もちろんですとも、お嬢さん方。――まず大前提としてグローアライヒ、特に王侯貴族だね。彼らが鉱石に対して特別な思い入れを持ってる、って事情があるんだ」
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