上 下
101 / 372
第六章:

白亜城の思い出⑤

しおりを挟む

 「――あのー、お二人さん? そろそろいいかな、その子だいぶ苦しそうなんだけど」

 「うわっホントだ! 大丈夫!?」

 「ごめん、力の入れ方間違えたーっ」

 「……い、いや、なんとか平気だから。うん」

 『びっくりしたさ~』

 「ああっごめん! イオンちゃんもごめんー!!」

 頃合いを見計らって話しかけてくれた引率者により、無事窒息の危機から脱することが出来たわたしだった。ありがとうりっくん。




 そんな微笑ましいやり取りを交えつつ、再び長い通路を歩き続けること数分。

 何度か角を曲がり、これまた大理石でできた渡り廊下を通って、一同がたどり着いたのは独立した棟だった。先ほどまでいた最初の建物と同じくらい豪華だけど、なんとなく雰囲気が違う気がする。しばらく移動してみて、ようやくその原因がわかった。

 「ねえ、さっきのとこより像とかレリーフが多くない?」

 「……うん、そういやそうね。どこの部屋にもひとつはある感じ」

 『あー、あっちにまやーがいるさー』

 「イオンちゃん、まやーってなあに?」

 『んとねぇ、ネコちゃんのこと~』

 リラに聞かれてきちんとお返事してくれたとかげさんの言うとおり、ちょうど通りかかった廊下の端に小ぶりな像が置いてあった。全身真っ白のそれは、どうやらエントランスと同じく大理石を彫って作られているみたいだ。今にも動き出しそうな本物そっくりの猫が、差し込む太陽に涼しそうな光沢を放っている。

 そういやここまで見てきた像やレリーフも、馬とか鹿とかうさぎとか。あるいは鳥とか魚とか、人間以外のさまざまな生き物の姿をかたどったものばかりだった。

 確かさっきの説明だと、奥側にある建物は王様の家族が過ごす私的な空間のはずだ。ここを作ったとき、ご家族の誰かに動物好きな人がいたんだろうか。

 「……いや、ホントよく見てるね。初めて来る場所でそこまで気付けるもんじゃないよ」

 「そうかなぁ。りっくんは何か知ってたりする?」

 「さあ? さすがに内装のコンセプトまではね。ただこうかな、っていう仮説なら立てられるけど」

 「え、ほんと? どんなの?」

 「はいはいっ、私も聞きたいです先生ー」

 『あーい、イオンも~~~』

 「本とノリが良いわよねえ、あんたたち」

 そろって元気よく手を挙げたわたしたちに、フィアメッタがやれやれと軽くツッコミを入れている。そんな一同に、リックはいたって機嫌よさそうに笑って頷いてくれた。ゲームでもそうだったけど、こうやって人から頼られたときってとっても嬉しそうなんだよな、このひと。

 「もちろんですとも、お嬢さん方。――まず大前提としてグローアライヒ、特に王侯貴族だね。彼らが鉱石に対して特別な思い入れを持ってる、って事情があるんだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

あ、出ていって差し上げましょうか?許可してくださるなら喜んで出ていきますわ!

リーゼロッタ
ファンタジー
生まれてすぐ、国からの命令で神殿へ取られ十二年間。 聖女として真面目に働いてきたけれど、ある日婚約者でありこの国の王子は爆弾発言をする。 「お前は本当の聖女ではなかった!笑わないお前など、聖女足り得ない!本来の聖女は、このマルセリナだ。」 裏方の聖女としてそこから三年間働いたけれど、また王子はこう言う。 「この度の大火、それから天変地異は、お前がマルセリナの祈りを邪魔したせいだ!出ていけ!二度と帰ってくるな!」 あ、そうですか?許可が降りましたわ!やった! 、、、ただし責任は取っていただきますわよ? ◆◇◆◇◆◇ 誤字・脱字等のご指摘・感想・お気に入り・しおり等をくださると、作者が喜びます。 100話以内で終わらせる予定ですが、分かりません。あくまで予定です。 更新は、夕方から夜、もしくは朝七時ごろが多いと思います。割と忙しいので。 また、更新は亀ではなくカタツムリレベルのトロさですので、ご承知おきください。 更新停止なども長期の期間に渡ってあることもありますが、お許しください。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

処理中です...