84 / 372
第六章:
迷子の仔竜ちゃん①
しおりを挟む
――遠い昔、天から降り注いだ星によってできた世界がある。
神々の祝福を受けたその大陸には、数多の魔法が存在した。人々は生まれながらに『贈り物』と呼ばれる術をあやつり、家族を守り仲間を助け、国を豊かにしていく。長らく平穏な時代が過ぎ、誰もがこのまま平和が続くのだと思っていた。
しかしながらあるとき、大陸の中ほどにある小国・ランヴィエルで異変が起こる。生きとし生けるもの全ての敵である魔族が、その長『魔王』を擁立して各地に攻撃を開始したのだ。穏やかに暮らしていた人々はおののき恐れ、救い主を待ち望むようになる。
そんな中、ランヴィエルの小村で静かに暮らす少女・リュシーの元に、ある夜小さな星が降ってくる。七色に輝く星くずは神々の使者と名乗り、リュシーこそが魔族の進行を退けて『魔王』を倒す救世の乙女だと告げるのだった。
これはひとりぼっちだった少女が仲間と心を通わせ、共に闇を打ち払い、ただひとつの愛を見つける物語――
「……っていう、王道まっしぐらな話だったはずなんだけどなぁ。元々は」
「イブマリー、なんか言った? その子待ってるわよ」
「あ、はいはい。あーん」
『あ~』
うっかり思考を飛ばしていたら、フィアメッタに注意されてしまった。
急いでお粥をすくって差し出してあげると、相手は素直におさじを口に入れてくれる。もぐもぐ一生懸命に噛んでるのがほほえましい。
「熱くなかった? ちゃんとおいしい?」
『あい、おいしいよ! イブねーねーはお料理じょうずさ~』
「へへ、ありがとー。いい子いい子」
『きゃ~♪』
「ねーイブ、次私やってもいい?」
「はーい、お願いしまーす」
『おねがいしまーす、リラねーねー』
「きゃーっ可愛い~~~!」
「……お粥が冷めないうちに食べさせなさいよ? リラ」
「わかってるってばー」
冷静にツッコミを入れてくるフィアメッタに、さっぱり堪えてないリラがあっけらかんと返事した。
――天泪露集め、およびその後の大怪獣襲来事件から、時は流れてはや三日。相変わらずグラディオーレ商会でお手伝いをしながら、それなりに平和に過ごしているわたしたちである。
ただ、ちょっとだけ変化したこともあるんだけども。
『イブねーねー、どーしたの? イオンがちまやーで疲れちゃった?』
「いや、何でもないけど……がちまやー?」
『あのね、食いしんぼってこと』
「ああ、そっか。大丈夫だよ、たくさん食べてくれてうれしいもん」
『えへへ、そっかぁ』
ちょこちょことテーブルの上をやって来て、わたしの返事ににぱーっとうれしそうに笑うのは、パステルブルーで手のひら愛情サイズのかわいいとかげさん。そう、つい三日前に天泪露のせいで巨大化して、一時は某大怪獣もかくやという進撃っぷりを見せたあの子だ。
神々の祝福を受けたその大陸には、数多の魔法が存在した。人々は生まれながらに『贈り物』と呼ばれる術をあやつり、家族を守り仲間を助け、国を豊かにしていく。長らく平穏な時代が過ぎ、誰もがこのまま平和が続くのだと思っていた。
しかしながらあるとき、大陸の中ほどにある小国・ランヴィエルで異変が起こる。生きとし生けるもの全ての敵である魔族が、その長『魔王』を擁立して各地に攻撃を開始したのだ。穏やかに暮らしていた人々はおののき恐れ、救い主を待ち望むようになる。
そんな中、ランヴィエルの小村で静かに暮らす少女・リュシーの元に、ある夜小さな星が降ってくる。七色に輝く星くずは神々の使者と名乗り、リュシーこそが魔族の進行を退けて『魔王』を倒す救世の乙女だと告げるのだった。
これはひとりぼっちだった少女が仲間と心を通わせ、共に闇を打ち払い、ただひとつの愛を見つける物語――
「……っていう、王道まっしぐらな話だったはずなんだけどなぁ。元々は」
「イブマリー、なんか言った? その子待ってるわよ」
「あ、はいはい。あーん」
『あ~』
うっかり思考を飛ばしていたら、フィアメッタに注意されてしまった。
急いでお粥をすくって差し出してあげると、相手は素直におさじを口に入れてくれる。もぐもぐ一生懸命に噛んでるのがほほえましい。
「熱くなかった? ちゃんとおいしい?」
『あい、おいしいよ! イブねーねーはお料理じょうずさ~』
「へへ、ありがとー。いい子いい子」
『きゃ~♪』
「ねーイブ、次私やってもいい?」
「はーい、お願いしまーす」
『おねがいしまーす、リラねーねー』
「きゃーっ可愛い~~~!」
「……お粥が冷めないうちに食べさせなさいよ? リラ」
「わかってるってばー」
冷静にツッコミを入れてくるフィアメッタに、さっぱり堪えてないリラがあっけらかんと返事した。
――天泪露集め、およびその後の大怪獣襲来事件から、時は流れてはや三日。相変わらずグラディオーレ商会でお手伝いをしながら、それなりに平和に過ごしているわたしたちである。
ただ、ちょっとだけ変化したこともあるんだけども。
『イブねーねー、どーしたの? イオンがちまやーで疲れちゃった?』
「いや、何でもないけど……がちまやー?」
『あのね、食いしんぼってこと』
「ああ、そっか。大丈夫だよ、たくさん食べてくれてうれしいもん」
『えへへ、そっかぁ』
ちょこちょことテーブルの上をやって来て、わたしの返事ににぱーっとうれしそうに笑うのは、パステルブルーで手のひら愛情サイズのかわいいとかげさん。そう、つい三日前に天泪露のせいで巨大化して、一時は某大怪獣もかくやという進撃っぷりを見せたあの子だ。
0
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
妹に婚約者を取られましたが、辺境で楽しく暮らしています
今川幸乃
ファンタジー
おいしい物が大好きのオルロンド公爵家の長女エリサは次期国王と目されているケビン王子と婚約していた。
それを羨んだ妹のシシリーは悪い噂を流してエリサとケビンの婚約を破棄させ、自分がケビンの婚約者に収まる。
そしてエリサは田舎・偏屈・頑固と恐れられる辺境伯レリクスの元に厄介払い同然で嫁に出された。
当初は見向きもされないエリサだったが、次第に料理や作物の知識で周囲を驚かせていく。
一方、ケビンは極度のナルシストで、エリサはそれを知っていたからこそシシリーにケビンを譲らなかった。ケビンと結ばれたシシリーはすぐに彼の本性を知り、後悔することになる。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる