上 下
68 / 372
第五章:

主役(ヒロイン)前線異常あり①

しおりを挟む
 「あんなに長いこといっしょにいたのに、なんで気づかなかったんだろ……ごめんなさい」

 「いいって、気にすんな。うちは外で苗字を名乗るって習慣があんまりねえからな」

 「おれと兄貴、全然似てないって身内にもよく言われるからな~。まあ似なくてよかったけどさ」

 「いっつも一言余計なとこが全ッ然直ってねえな、てめぇは……!!」

 「いだだだだだだ」

 ついついいつもの調子でやらかして、お兄さん渾身のコブラツイストをかけられてギブギブ! とじたばたするディアスさんだ。うん、こうやって見てると確かに弟っぽいなぁ。

 衝撃のトリプル再会から、時は流れて数十分後。あれだけ目立ってしまった上でふらふら出歩く勇気はさすがになかったため、急遽母屋に引き返してリビングに陣取り直したわたしたちである。

 ちなみにシェーラさんは、午後からよそで商談があるとかでお出掛け中。出掛けにゆっくり話すといいよ、て声をかけてくれたのが本当にありがたかった。オズさんたちはお疲れなのか部屋に引き上げ後だったので、後ほど様子を見に行こうと思う。

 「ていうかアニキ、お兄さんいたんだねぇ。ちっちゃいイトコがたくさんいるのは聞いたけどさ」

 「実家が旅回りしてて大人数だ、ってのは知ってたけど。つかあんた、よくよく考えたらフルネーム名乗ってなかったわよね」

 「まあ取り立てて不便はなかったし、姓を伏せているのは何か事情があるやもと問い質したりもせなんだが……うっかり失念しただけか、この分だと」

 「あっはっは、ごめん! 実はそうだったりして」

 「……いや、まあ、大事がなくて何よりだ。うむ」

 あっけらかんと笑って言われて、肩を落としたショウさんがため息をついている。この人のことだからいろいろと気を回しまくったんだろうに、気の毒な。

 そんなやり取りを、相変わらず弟さんにヘッドロックかけながら聞いていたアルバスさんだ。ひとしきり締め上げて気が済んだのか、ぽいっと放すと居住まいを正し、改めて口を開いた。

 「すまん、うちの弟が迷惑かけたな。それとアンリ……じゃねぇ、イブマリーを助けてくれてありがとう。ランヴィエルに残ってる奴らの分も併せて礼を言わせてくれ」

 「いや、とんでもない。我々は当然のことをしたに過ぎませぬ」

 ひざに手をつき、正面に座るショウさんに向かって丁寧に頭を下げてくる。こういう、相手が誰であっても義理堅くて真っすぐに接してくれるところが、このひとの一番の良さだよなぁと改めて思うわたしだ。

 見た目も声もカッコいいけど、何よりもとにかく生き方というか、生きることへの姿勢が素敵なんだよな。あとさっきもそうだったけど、意外と照れ屋で不器用なのも人気だ。それこそショウさんと同じくギャップ萌えというやつだろうか。最推しはライバル(幸せになってほしいって理由で)、次点でフェリクスさん(見ていて和むという理由で)というわたしだが、盗賊さんルート攻略中は画面見ながらにやにやが止まりませんでしたとも、ええ。

 そしてそんな御仁と現在進行形で仲間な詩人さんはやっぱり同席中で、みんなのやり取りをいつものふんわり笑顔で眺めていたりする。というのも、どうやらアルバスさんがグラディオーレ商会に顔を出したのは、このひとが事前に連絡していたから、だったそうで。

 「急に手紙が届いたんで何ごとかと思ったぞ。しかもハトじゃなくて風の眷属使ってきやがるし」

 「すみません、もうじきこちらへ着く頃合いだと思ったものですから。取り急ぎお伝えせねばと」

 「あ、フェリクスさんて風霊シルフの言伝が使えるんだ。やっぱあれですか、繋がり?」

 「ええ、そんなところです。……が、そのお話はちょっと。せっかく直ったご機嫌を損ねますので」

 「……あ~~、はいはい。そういや膨れてましたっけ」

 申し訳なさそうに勘弁して、の仕草をされて、察したらしきフィアメッタがちょっと遠い目になった。あんたらホントこの子に甘いですよねと、その表情に大書きしてある。その手の文句はデッドエンドを仕掛けた黒幕さんに言ってくれ、頼むから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

妹に婚約者を取られましたが、辺境で楽しく暮らしています

今川幸乃
ファンタジー
おいしい物が大好きのオルロンド公爵家の長女エリサは次期国王と目されているケビン王子と婚約していた。 それを羨んだ妹のシシリーは悪い噂を流してエリサとケビンの婚約を破棄させ、自分がケビンの婚約者に収まる。 そしてエリサは田舎・偏屈・頑固と恐れられる辺境伯レリクスの元に厄介払い同然で嫁に出された。 当初は見向きもされないエリサだったが、次第に料理や作物の知識で周囲を驚かせていく。 一方、ケビンは極度のナルシストで、エリサはそれを知っていたからこそシシリーにケビンを譲らなかった。ケビンと結ばれたシシリーはすぐに彼の本性を知り、後悔することになる。

断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした

カレイ
恋愛
 子爵令嬢に陥れられ第二王子から婚約破棄を告げられたアンジェリカ公爵令嬢。第二王子が断罪しようとするも、証拠を突きつけて見事彼女の冤罪を晴らす男が現れた。男は公爵令嬢に跪き…… 「この機会絶対に逃しません。ずっと前から貴方をお慕いしていましたんです。私と婚約して下さい!」     ええっ!あなた私の婚約者ですよね!?

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...