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第五章:

恋(と商い)は戦争⑤

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 ――許可がもらえたので、ぜひヴァイスブルクまで行ってみたいです。

 星送りでお世話になりまくりだったスコールくんからそんな手紙が届いたのは、ダンジョン挑戦の翌朝一番だった。もっともわたしはまだ眠っていたので、実際には起きてから他のみんなに教えてもらったんだけど。

 もちろん即OKのお返事を送って、じゃあこの日にギルドで待ち合わせしようと決めて、楽しみに待っていた――ハズだったんだけど、初売り騒動のダメージが思いのほか深刻だったらしい。それはみんなだって同じだが。

 「アニキ、いま何時ー!?」

 「居間の時計だと昼ちょっと前だったぞ!」

 「まずいな、あそこの置時計って五分遅れてるのよ!」

 あの真面目なスコールくんのことだ、十分前集合を実行してる可能性はかなり高い。今日に関してはもっとゆったりしてていいよ! 猛ダッシュすればたぶん、お昼の鐘が鳴る前には着くから!

 そんなやり取りをしつつみんなで母屋からドタバタお店へ戻る。いつ出て行ったか分からないので、正面の店舗からお出かけするのがシェーラさんとのお約束だ。

 店内にはたくさんの棚が並んでいて、向かって右側が武防具スペースで布とか金属とかの見本がずらり、左側が魔法薬スペースで大きなガラス瓶に入った薬種が所狭しと並べられている。間にあるテーブルはお客さんの相談とか、見本を広げたりとか、簡単な調合をしてみたりとかに使うらしい。明るくて広々としてて、毎朝焚いてるハーブの爽やかな香りがいい感じだ。こんな素敵なお店で働ける人たちがちょっとうらやましい。

 そんな店内はさっきよりは落ち着いてて、数名のお客さんが棚を見てる以外に人影はない。でもそんな中、店員さんたちがしきりに外を気にしてるのが目についた。特に、比較的若い人たちが。

 「ねー、なんかお姉さんたち、そわそわしてない?」

 「うん、確かに」

 「ねえ、なんかあった? みんな気もそぞろだけど」

 「あっ、お嬢様! お疲れ様ですっ」

 フィアメッタに聞かれてあわててお辞儀する売り場のお姉さん、確か名前はルカさんて言ったか。栗色の巻き毛に同じ色の目の可愛いひとで、歳はたぶん二十歳くらいかな? 開け放してあるドアの向こうをちらちら横目で見ながら、

 「いえ、大したことじゃないんですけど……さっきから、お店の外でお話しされてる方たちがいまして」

 「なんだ、冷やかしってこと?」

 「そう……なんですかね? なんだかご用があるような、ないような感じです」

 なんだかはっきりしないお返事だ。とりあえずこっそりドアの陰から耳を澄ますと、外のざわざわに混ざってやり取りが聞こえてくる。

 「――だぁから、ついでに顔出していきゃいいだろ。道すがらなんだからよ」

 「で、でもあの、まだ出かけてなかったら急かしたみたいになるんじゃ……」

 「ったく、思い切りが良すぎる割に気にしいだよなぁお前さん」

 聞き覚えのある声に、真っ先に動いたのはリラだった。覗き込んだ顔がぱあっと明るくなる。

 「あっやっぱり! スコールくん、こないだぶりー!」

 「あらホント。わざわざうちに来てくれたの? なんかごめんね」

 「い、いいえっとんでもない! あの、お久しぶりです!!」

 女の子二人にあいさつされて、ぶわっと尻尾が逆立ってるのは間違いなく天狼族の男の子だった。別れた時に比べて大分元気そうで安心する。

 しかし、あいさつしようとしたところで、わたしはぴしっと固まってしまった。なぜなら、スコールくんのすぐ後ろに立ってるひととばっちり目が合ったからだ。

 たぶん百八十センチ台の後半だろう、おっそろしい長身でガタイもかなり良い。渋い銀髪に赤ワインみたいな色の目をした、野性味のあるなかなかの男前さんだ。服装はすっかり見慣れた、盗賊ジョブの典型……っていうか、このひと以上に似合う人物をわたしは知らない。数日前に引き続いてマジですか。

 妙なデジャヴを覚えつつ立ちすくんでいたところ、いつの間にか近づいてきていた相手ががしっ! とものすごい勢いで両肩を掴んだ。これまたすさまじい真顔で口を開く。

 「――おい。ちょっとつねれ」

 「は?」

 「いーから。鼻でも口でも頬でもいい、オレの顔をどこかしらつねってくれ」

 「……ええっと、はい」

 「いっ!?」

 訳が分からないまま、とりあえず無難にほっぺをむぎゅっとやる。あっちは一瞬顔しかめたけど、すぐに泣き笑いみたいな表情になって、ひょいっとわたしを抱え上げた。小さい子がよくやってもらってる、片腕に座らせるような体勢のあれだ。

 「ぶわあ!?」

 「よしっ、てことは夢じゃねぇな! 良く生きてた、アンリ!」

 「いやあのちょっと待って! ていうか重くないですか!?」

 「姫さん一人くらいどうってことねえよ。……ったく、こっちは大丈夫とか大口叩きやがって。出先であんな知らせ受け取ってどんだけ驚いたか」

 「う、……ご、ごめんなさい」

 「謝るな、お前のせいじゃねえだろ。……アンリが無事だったんなら、それでいい」

 「…………う、うわあああんお父さん~~~~~!」

 「おとーさん言うな! オレはまだ二十二だっての、せめて兄貴にしてくれっ」

 たぶん覚えてる限り、実の両親にもここまで心配されたことはない。そんな心のこもった言葉を涙声で言われて、代理のわたしですらじんと来てしまった。しがみ付いてべそをかきだしたところ、しっかりツッコミを返しつつ背中をぽんぽん叩いてくれる。良い人だなぁホント。

 すっかり置いてけぼりをくらったみんなの後ろから、ふいに軽く咳払いが聞こえた。まだ涙目のままで振り返ると、話しかけたくないなーという顔で頭をかいているうちの盗賊さんが見える。

 「……ええっとな、出来れば口をはさみたくないんだけど、ちょっとこれだけ言わせてくれ。イブマリー、その人って」

 「あ、うん。あっちでいっしょに戦ってくれたひとでね」

 「盗賊のアルバス・ラウルス・ノビリス、だろ?」

 「、へっ? 何で知ってるの!?」

 「うーん、それはなあ。いまイブマリーを抱き上げて真っ赤になってる人に聞いた方が早いと思うぞ? な、

 「~~~~~っ、てめぇなぁ! よりにもよって何でここにいやがる愚弟!!」

 「「「「「「えええええええ!?!」」」」」」

 ダブルかと思いきや、まさかのトリプル再会劇だったというオチに、居合わせた全員の叫びが表通りに響き渡った。
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