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第四章:

吟遊詩人、かく語りき②

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 「そういえば、他の二人はどうしてるんですか? 別行動中とか」

 「ええ、一足先に戻っていただきました。同行できなくはありませんが、私が一緒だと目立ってしまいますし」

 「……あ、それもそうですね」

 大急ぎで戻るなら、最短距離は空を行くことだ。それなら確かに、あの二人で先行してもらう方が確実だろう。

 当事者にだけ通じる会話に、女子二人がこてんと首をかしげている。さて、どこからどうやって説明したものかと考えていたら、ここで大人しくお座りしてたティノくんがはーい、と片前脚をあげた。

 ちなみにこの子はさっき歩いている途中、お腹いっぱいでいつの間にか寝入ってしまってたので、広場でのやり取りをほとんど知らなかったりする。

 『おにーさんて詩人さんなの? 楽器とお歌が得意なんだっけ』

 「ええ、そうですよ。あと、自分が見聞きしたことについて詩を書くのが仕事になりますね」

 『じゃあ、うちのご主人が冒険したのも詩になるの?』

 「はい。ぜひ題材にさせていただいて、後世に残るものにしたいと考えています。……叶うことなら、幸せな終わり方にしたいものですが」

 すごーい! と尻尾をぱたぱたさせてる雷獣さんを撫でながら、詩人さんがちょっと沈んだ顔になった。考えていることはよーく分かる。

 (だよなぁ……このままだとライバルの冤罪とデッドエンド、正史として叙事詩とかに残っちゃうから)

 でも今現在、わたしはランヴィエルには帰れないし、どーしたもんか。正直とっても恵まれているので、戻れなくても何も困らないと思ってたのだ。

 そういや何やら陰謀があるみたいだし、リュシーとか殿下とか大丈夫だろうか。まあ、仲間の中でも武闘派の二人が先に戻ってて、後からフェリクスさんも合流するなら、よっぽどのことがあっても切り抜けられるはずだけど……

 「ところでアンリ、いえ、イブマリー嬢。こうして霊獣から慕われているということは、今後は幻獣使いや召喚士を目指すおつもりなのでしょうか」

 「ああ、はい。どうも好かれるみたいなので、テイマー系で冒険者ができたらいいなって。みんなも勧めてくれたので」

 さすがの洞察力で言い当ててくれるのに頷きつつ、さっき受付でもらったものを確認する。

 三日月を二つ重ねた形のブローチで三つホールがあり、今は端っこに黄色い石がひとつはまっていて、時折ちらっと光っていた。稲妻みたいな輝きを放つこれは、もちろんティノくんがくれた契約の印だ。

 これが各種族からの加護を証明するアイテムであり、身分証明にもなるんだそうだ。あと二つどうやって集めようかな、揃うまでは見習いとして先輩たちと行動していいですよってことだったけど、早いとこ一人前になりたいしなぁ。どうしたもんか。

 「とりあえず仮登録は済ませたし、ギルドの掲示板で募集してみるか? 依頼とかの情報を貼っとくとこ」

 「ああ、入って右側にあったの? 羊皮紙がびっしりピンで刺してあった」

 「そうそう、それ。ヴァイスブルクのギルドはこの辺じゃ一番大きいし、契約者や宿主を探してるやつもけっこう出入りするから。……ただな、ちょっと問題があって」

 「え、……ど、どんな……?」

 アドバイスしてくれたディアスさんが、ふと難しい顔をした。見れば、向かい側に腰かけているショウさんもえらく深刻な表情になっている。恐る恐る続きを促してみると、腕を組んだ盗賊さんが再び説明してくれた。

 「一旦契約して従魔なり庇護者なりに納まると、よっぽどのことがない限り解消できないんだ。タッグを組んだ後で仲がこじれて、相方と一緒に資格までなくした、なんてケースもあったりするし」

 「不特定多数に向かって、相方を募っていると公にすることは危険が伴います。殊に、うら若い女性の場合は」

 なるほど、そりゃそうだ。

 霊獣や精霊は人間よりうんと頑丈で、腕力も魔力も恐ろしく強烈だ。もし揉めたとき、物理的にか弱ければ流血沙汰、最悪あの世行き――なんてことになりかねない。わたしだって痛い目を見たくはないけど、万が一の場合には『紫陽花』の皆にまで迷惑をかけることになるのだ。慎重に行かないと。
 
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