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第四章:

吟遊詩人、かく語りき①

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 「――ええと、紹介が遅くなってごめんね。このひとがランヴィエルにいた時の知り合いで、吟遊詩人の」

 「フェリクスと申します。以後お見知り置きを」

 「ああいや、これはご丁寧に」

 再び一礼した相手に、代表して受け応えているショウさんがこちらもきちんとしたお辞儀を返した。相変わらず律儀なひとである。

 突然の再会から、時は流れて数十分後。場所はさっきの広場から歩いてすぐのところにあった、冒険者ギルドの一室だ。入ってすぐのとこにあるカウンターで頼んだら、こころよく貸してもらえたのである。

 しかし、受付のおねーさんもびっくりした顔で二度見してたのを見ると、やっぱり相当きれいなんだよなぁフェリクスさん。推しキャラの贔屓としては嬉しい限りである。

 「お噂はかねてより、イブマリー嬢から伺っております。国を出るときは別々に行動していたゆえ、誤解されているのではと気を揉んでおられました。とにかく優しい方だから、心を痛めておられたら哀しい、と」

 「そうなのですか? 申し訳ありません、貴女こそ大変だったでしょうに」

 「いいえ、もう生きてただけで最高に運が良かったから。みんなにも会えたし」

 「……そうですか。それならば良かった」

 ぱたぱた両手を振ってフォローすると、ほんわり笑顔に戻ってくれた。うーん、正面から見るとやっぱりきれいだなぁ……めっちゃ目の保養です、はい。

 ところで、なんで追い出された側と居残った側が再会して、こんなに和やかな雰囲気なの? と疑問に思われるかもしれない。

 実はわたしも最初、ちょっぴり心配だったわけなんだけど……そのそもそもの原因は、王太子ルートの最後らへんにある。

 ヒロインとライバル、そして王太子といっしょに戦ってくれた仲間は、フェリクスさんを入れて全部で三人。それぞれが攻略対象になっているので、ルートが分岐すれば別々のエンディングを迎えることになるが、ラスボス撃破後は必ず三人で揃って極秘の任務に出立していく。その行き先が、何を隠そうグローアライヒだったりするのだ。

 ライバルが婚約破棄からのデッドエンドを迎えるのは、そのすぐあと。だから正式な判決が出ると同時に伝令が行ったとしても、ことの顛末を知るのはライバルが死亡した後になる。まさしく後の祭りってやつだ。

 話を聞いたら案の定、フェリクスさんも任務が終わって帰ろうとしたとこで知らせを受けて仰天したらしいし。

 「びっくりしましたよね、ごめんなさい」

 「いえ、私などはまだましな方です。他の二人がとても衝撃を受けていて……騎士殿など、今にも倒れんばかりでしたから」

 「あああ、やっぱり……りっくんエリートなせいか、意外と神経細いからなぁ」

 「……イブマリー、りっくんて呼んでるわけ? 男の人で騎士さんなんでしょ??」

 「うん、だって同い年だし。意地っ張りだけど、結構照れ屋さんでかわいいとこもあるの」

 「……へー、そお……」

 本当は幼馴染だったヒロインが言い出したんだけど、旅の途中で面白がったライバルがマネし始めて『勘弁してよ!!』て真っ赤になるシーンがあったっけ。わたしも好きだから採用してしまおう、そうしよう。なんかフィアメッタがやけに遠い目をしてるのが気になるけど。

 「ねえねえイブ、もう一人のひとってどんな感じなの?」

 「えっとね、ディアスさんとおんなじ盗賊のひと。わたしの四つ上で、ぶっきらぼうだけどわりと面倒見が良くて優しいよ。カッコいいし」

 「きゃーっ♪」

 「うわー、こりゃ意外なとこに伏兵がいたなぁ。リーダー」

 「……なんの話だ、藪から棒に」

 「いやなに、イブマリーの古巣の人たちがこんだけ心配してる上にイイ男ぞろいってなると、ちょっと危機感持っといたほうがいいかなーと」

 「あのな……」

 簡単に解説すると、ソファの背もたれからひょっこり顔を出したリラが大きな目をキラキラさせる。やっぱり乙女としてはイケメンが気になるだろうな。

 男子二人のやり取りは小声だったのでよく聞こえなかったけど、フェリクスさんが『おやおや』って感じでほほ笑んでるから楽しい話題なんだと思う。手合わせとかしたいのかな?
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