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第三章:
星守る狼⑦
しおりを挟む足元にリラのものとは別の魔法陣が現れて、満月みたいな銀色に輝いた。次の瞬間、スコールくんから黒い霧みたいなものが飛び出して大蛇を直撃したかと思うと、びくうっ! と痙攣して倒れ込む。
苦しそうにじたばた転げ回り始めたそのまわりを、ざわざわ取り巻く黒い霧が見えた。やった、思った通りだ!
『ぬおおおおおお!?!』
「よしっ、行けティノくん!! カミナリッ」
『ちぇーすとー!!』
どっかああああああん!!!
『……へぶぅっ!?』
すかさず雷獣くんに向かって叫ぶと、晴れ渡った空から駆け下って来た稲妻が情け容赦なく大蛇を吹っ飛ばす。
べちゃあっと地面に叩きつけられ、潰れたカエルみたいな悲鳴が上がったところで、わたしは腰に手を当てて仁王立ちで言い放った。
「人を呪わば穴二つ! 他人に呪詛なんかかけるなら、当然それを返される覚悟はあるんでしょうね!?」
実はわたし、プレイし始めたばかりの頃に、何度か蟲毒のせいでバドエンしたことがある。そのときは悔しさのあまり、ついゲームを勧めてくれた友達に泣きついたんだけど。
『あれに限らず、呪い全般はライバルの生得魔法で返せるの。覚えといて損はないよ』
これはいわば裏技で、レベルが上って解呪の魔法を覚えると使わなくなるのだが、序盤でアイテムなんかも少ない頃はとってもお世話になったものだ。
ちなみに大蛇に言ったのは、古代・平安・幕末等々、和風ファンタジー作品全般の師匠でもあった彼女の名言だったりする。ありがとう我がオタ友よ!
「大体ねえ、こんな真面目で一生けんめいな良い子を、自分の都合だけでひどい目に遭わせるとかありえないでしょ!! 星の子たちだってあんたに食べられるために生まれてきたわけじゃないし、ぶっちゃけなくても心底迷惑だっての!!」
勢いに任せて言いたいことをどんどん言うと、まわりで星の子たちがふわふわ飛び跳ねた。そうだそうだ、と賛成してくれているような雰囲気だ。
そして、これはわたしがライバルに言ってあげたかったことでもあるなぁ、とぼんやり思う。あんなに国や家族のためにって頑張ってたのに、自分のことは二の次で周りのことにばかり気を回してたのに、なんでこの子は幸せになれなかったんだろうと今でも考えてしまう。
それで、どうしても明るい結末にしたくて、何度も何度もシナリオをやり直して。そのたびに同じエンディングを迎えたのがすごく悲しかったし、悔しかった。だから、
「もうわたし、理不尽はコリゴリだから! 楽しい余生のジャマするんなら、覚悟してもらいましょうか!!」
乙女ゲームというより、少年漫画のクライマックスみたいなセリフを言い切って、堂々と腕を組んでやった。
……ら、わしゃわしゃ頭を撫でてきたりギューッと抱き付いてきたりもふもふ頬ずりしてきたり目頭押さえたりと、まわりからいろんなリアクションが返ってきて、目が点になる。はて?
「……えっ? あの、どうかした??」
「したわー!! あんたねえ、そんなん今みたいな状況で言われたら泣くに決まってんでしょうがー!!」
『くわ~~~』
「うわあああんイブがイイ子すぎるううううう」
『ご主人かぁっこいいー!』
「うんうん、その気合いがあれば絶対幸せになれるぞ。なっリーダー」
「……応とも。もう悪縁は尽きたのだから、そうなるに決まっておろう」
「はあ……」
いや、ほめてもらえるのは嬉しいけど。絶対大丈夫って太鼓判を押してもらえるのもありがたいことだけど、ホントなんでそうなったんだろうか。
ひたすらきょとんとするわたしのすぐそばを、そのとき猛ダッシュで駆け抜けた黒い影があった。
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