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第三章:

星守る狼⑥

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 「これ相当ひどくなってるぞ、どこでもらった? いくら何でもほったらかしはまずいぞ」

 「……一月ほど前に、あいつから。あの蛇は昔から、星の子を好んで食べるので」

 スコールくんいわく、あの大蛇はうんと前からこの辺りに棲んでいて、代々の星守とたびたび激闘を繰り広げてきたそうだ。

 ただ大きいだけで突進と噛み付きぐらいしか出来なかったはずなのに、どこで身に着けたやらやっかいな呪術を覚えて打ち込んできたらしい。そもそもなんでそこまでして妖精玉を食べたいかというと、

 『あれはなかなか滋養が高くてな。味は然程でもないが、喰らえば数十年から百年ばかりも寿命が伸びるのよ。まあ狙っておる者は他にも多いが』

 「あんた他のものも食べれるでしょ、そっちにしてよ! 今だってなんか生臭いし!」

 『ほう。ならば街道を通る人間を片端から襲っても構わんのだな?』

 「う゛」

 「こらリラ、なにあっさり言い負かされてんの! ていうかマトモに相手にしない!!」

 「だってムカつくじゃん、あのどや顔ーっっ」

 結界の外で鎌首もたげて、しゃーっというノイズ混じりの声でめっちゃ自分勝手なことを言ってくる大蛇である。そしてリラにツッコミを入れつつ、フィアメッタだって相当ムカついているのは、ぴくぴくしてるこめかみで一目瞭然だ。

 すぐに突撃していかないのは多分、山火事を警戒しているから。頂上はほぼ笹以外に何もないけど、森に逃げ込まれたら打つ手がない。ハデな戦闘になればなるほど、火の粉があちこちに飛び散ることになるはずだ。

 『郷に帰ったら誰かにうつるのではというのと、役目を全うしたいという責任感で報告を渋っておったのだろうよ。
 惨めなものだ、弱いものほど群れたがる。互いを想うほどにその思いに脚を取られる。これほど無様で滑稽なことがあろうか? 梃子でも他人を頼らなんだそやつがこうして数を集めた辺り、いよいよ限界が近いのだろうがな』

 「……他にひとがいれば、目の前で倒れるわけにいかなくなると思って。巻き込んですみません」

 ということは、つまり。力の限りバカにしてくる蛇のセリフは八割がた聞き流すとして、スコールくんは天狼族の皆と星の子たちの両方を守ろうとして無理をし続けて、それでもどうしても役目を果たしたいから、助けてもらうためじゃなくて自分へ発破をかけるためにわたしたちを連れてきた、ってことになるわけで。

 (うわああああイイ子すぎかー!!!)

 「あっちょっと、あんた大丈夫!?」

 『ご主人どーしたの!?』

 うっかり涙が出そうになって口元を抑えたため、近くにいたひとたちを仰天させてしまって申し訳ない。星の子たちまでどこかおろおろしている気がする。ああっごめん、ごめんだけど涙腺は昔からちょっと脆くて! こんなところで感受性の弊害が!

 「謝ることはない、己の最善を尽くしたのだろう? 貴方は立派に役目を果たした。あとやるべきは星の子を見送ること、そして生きて郷に帰ることのみだ。瑣事は我らに任せておけ」 

 (うわああああ男前だー一生ついていきたいー!!)

 そして、そんなわたしをさり気なく支えてくれつつ、健気な少年に頼もしすぎることばをかけるうちのリーダーがカッコよすぎる。何ていい人なんだ、分かってたけども!

 「よし。そんじゃ一番手は誰にする?」

 「「はいッ!!」」

 「いやなんでよ! リラは結界の維持があるでしょーが!!」

 「ええええ、私だってあの蛇ボコりたいー!!」

 「……あのー、わたしやっていい? ちょっと思いついたことがあって」

 「イブマリー嬢が、ですか? それはもちろん構いませぬが」
 
 何とか復活したところで、そーっと手を挙げて立候補してみる。なんかこのやり取り、雷獣さんのときもした気がするなぁと思いつつ、リーダーおよび皆さんの快諾を得て前に出たところ。
 
 『ふははははは! 何かと思えばこんなか細い小娘を寄こすとは! 
 良いぞ、遠慮は要らぬ。何処からでもかかって来るがよい!』

 ――よーし。言ったな。

 ひとの顔見ていきなり爆笑するという無礼っぷりに、心でこっそり呟いて。その場に元気よく立ち上がり、びしりと指さしながら、わたしは文字通り遠慮なく叫んでやった。

 「フォーカス・! 『天理反転リバーサル』ッ!!」

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