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第三章:

星守る狼①

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 空が近くなると、その分いろんな発見がある。

 まず思うのは、見渡せる範囲の広さだ。山が高くなってくると背の高い木がまばらになって、屋根のように覆っていた枝葉がだんだん減っていく。いくらか歩いて再び視線を上げた時には、暮れかかった空が視界いっぱいに広がっていた。

 「一番星みっけ。もうすっかり暗くなったねぇ」

 『うん。でも妖精玉が照らしてくれるから、全然ヘーキだね!』

 夕暮れ時、東の空にひときわ明るく輝く一番星は、現代にいた頃も帰宅途中に何度も見たっけ。こうしてみると、完全に違う世界だと思っていたエトクロ次元にも、あっちとの共通点が少しはあるのかもしれない。

 ご機嫌で尻尾を揺らしているティノくんの、すぐ目の前をふわふわ飛んでいるのは、さっきからずっと付いて来てくれている妖精玉、すなわち星の子どもだ。

 スコールくんの案内の元、てくてく歩くこと数時間。日が落ちかけて明かりが乏しくなってきた頃、この子の光が結構力強いのがわかってきた。

 日中はほわほわした淡い灯のように見えているのだが、薄暗くなった森の中では驚くほどまぶしい。なにせ、フィアメッタがエルドくんを出さなくてもお互いの顔がはっきり見えるのだ。

 「そういえば、日中は太陽の明るさで目に映らないが、実は星というのはずっと空に見えているのだというな。先ほど星の子の光がよくわからなかったのは、それと同じことやもしれぬ」

 「よくご存じですね、その通りです。……ところで、本当に寄り道してもらって大丈夫なんでしょうか? 皆さんはお仕事の帰りだって聞いたんですが……」

 「なに、思っていたよりも早く進んでこれたのでな。さすがに秘められた聖地までは範囲外だが、ディアスはグローアライヒの地理ならば大体頭に入っているゆえ」

 「体よくマッパー扱いされてるってやつだなー。まあそんな俺の予測だと、今夜はどのみち山を抜けきれなかったはずなんだよ、うん」

 相変わらず真面目に心配してくれている案内人に、男子二人はいたって気楽に答えていた。ホントにありがたいですとも、ええ。

 ディアスさんが背負う保存袋に入った『恋重桜』は、新鮮さを保っていられるのは収穫してから一週間弱。そのタイムリミットは、国境近くの村から数えて三、四日というところらしい。しおれたり枯れたりすると、薬効や染物の色が悪くなるので、出来るだけ無傷で早いうちに届けるのがベストだ。

 それを前提にして組んだ今回の旅程、いちばん体力がないと思われたわたしが思いのほか健闘したようで、予想よりだいぶ早く進めているのだという。今晩はどのみち山でもう一泊の予定だったし、ちょこっと寄り道して星の子送りを見学しても問題なし、との判断が下ったのだった。

 もうすぐおうちに帰れるのでウキウキしているのか、妖精玉さんはしきりにほわほわ光っている。リラの頭に乗っかってくすぐったーい、と笑わせたり、フィアメッタの金の眼をキラキラさせたりとお茶目な動きをしていた。またこっちに移動してきて肩に乗ったので、よしよしと指先でなでてあげるとほわあああ、とちょっと強く光る。おお、うれしいんだな。

 「元気だねぇ」

 『うん、あれご主人に懐いてるんだよ~』

 「え、そう? なんで?」

 『だってやさしいもん。あの子見つけてもなんだこれーってこわがったり、逆に追いかけまわしたりしなかったでしょ? そういうことできるひとってあんまいないよ』

 「う、そ、そっか……なんかその、めずらしいって大変だね」

 『よくいわれる~』

 反対側の肩で尻尾をぱたぱたやりながら、何気に聞き捨てならないことを言ってくれるティノくんである。レア幻獣本人から聞くと説得力バツグンというか、なんというか。

 しかし、それこそどこかのゲームじゃないけど、この子たちもハンターとかに追いかけ回されたりするんだろうな……

 自分はひたすらゲットする側だから考えたことなかったけど、あれってもし防衛する側のポジションがあったら絶対大変だ。むしろ手伝わせてくださいお願いします、と言いたくなる。

 「スコールくんも天狼族のひとたちもえらいね……ほんと頭が下がる……」

 「はい!? いえっそんな、とんでもないです!!」

 つらつら考えてたら妙に申し訳なくなってしまい、思わず深々とお辞儀したらスコールくんが仰天していた。頭を上げて下さい! なんて必死で言ってくれるのがホントに良い人だ。星守って決めるためにいろいろ条件があるというけど、まず第一にこういう真面目で優しいところを見込まれたんだろうなぁ。
 
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