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第二章:

思いがけない戦闘と収穫④

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 岩陰からこっそり顔を出す。続行中のバトルは未だに決め手を欠いていて、上空の飛竜は心なしかドヤ顔気味だ。そのムカつく表情のまま、何度目かの強風攻撃を繰り出してくる。よし、今だ!

 「『天理反転リバーサル』!!」
 
 ぼっふああああああああ!!!

 『ほぎゃーっ!?』

 襲いかかった突風が、空中でいきなり逆流した。勢いはそのまま、空中でホバリングしていた飛竜に直撃してハデに吹き飛ばす!

 突然の出来事に、前衛三人がぽかんとした顔で固まっている。岩陰から出て駆け寄っていくと、最初に我に返ったフィアメッタががっちり腕をつかんできた。

 「おおう!? どしたの!?」

 「どしたのじゃないわよ、なんなの今の!! あんた魔法は軒並み使えなくなってるんじゃなかったっけ!?」

 「あー、うん、大体はそうなんだけど」

 「生得魔法は試してなかったみたいなんだー。にしてもすっごい威力だね、飛竜ひっくり返ってるよ!」

 あら、ほんと。間抜けな悲鳴と共に飛んでった魔物、仰向けに転がってぴくぴくしていたりする。

 ライバルの職業は魔導士で、同年代でも随一という実力を持つ。が、レベルアップでいろんな魔法を覚えられるからか、生得魔法についてはあんまりパッとしない。物理法則に働きかけて反転させる――つまり、飛んでくる魔法や飛び道具を弾いたり、軌道を逸らせたりする、というくらいだった。

 ……だったはず、なんだけど。

 『ぎゃうううう』

 「げ、起きた」

 「しぶといなぁ、正直もう手札がないぞ」

 「弱音を吐いている場合ではあるまい。とにかくもう一度――」

 「えっとあの、それなんだけど」

 「、は? どうされました」

 「わたし、もう1ターン……じゃない、もう一回やってみていいですか? 試してみたいことがあって」

 前に出ようとしたショウさんの袖を引っぱり、思い切ってお願いしてみる。バトルの最中に首を突っ込むとか、正直迷惑でしかないと思うけど、このチャンスを逃したら次はいつになるかわからない。

 瞬きもせず見つめてそう伝えたところ、真剣さが伝わったらしい。驚いた表情から頼もしい笑みに変わったリーダーさんは、ひとつうなずいてくれた。

 「相分かった。ただし、身の危険を感じたらすぐに退かれよ」

 「はい!」

 開けてくれた場所に進み出て、再び空に舞い上がった飛竜と向かい合う。さっきディアスさんがやったみたいに一回目を閉じて、バトルする気持ちでもう一度パッと開く。すると、

 (よし、やっぱり見えた! バトル画面で出てきたカーソル!)

 ゲームの戦闘画面で現れる、どこに攻撃するかを指示するためのカーソルだ。三角形を四つ組み合わせたそれが、視界の中にいくつも浮かんでいる。親切なことに、それぞれの下にちゃんと目標物が字で表示してあった。分かりやすくて助かる! 

 「フォーカス・浮力! 『天理反転リバーサル』ッ!!」

 ――どごっしゃあああああ!!!

 『ぎゃひん!!!』

 カーソルの一つを選んで、指さしながら唱えた直後。飛竜の周りで『空に浮いている』力が反転し、ものすごい勢いで地面に叩きつけられた。

 それはもう、真上から見えない巨人に力いっぱいぶん殴られたような轟沈ぶりだ。特に頭の方からごちッ!! と痛そうな音が響いて――

 ぐにゃっとその姿がゆがんだ。そのままどんどん縮んでいき、あっという間にネコくらいの大きさになる。最後に歪みが消えた後には、ふわふわした毛並みで耳の長い、見たことのない動物がぐったりしていた。

 「わあっかわいい! てことは、さっきの飛竜ってこの子が化けてたのかな」

 「化けてたっていうか、今の感じからすると幻術だろうな。どおりで攻撃がすり抜けてくわけだ、生身じゃなかったんだから」

 「とりあえず、今回はイブマリーが全部かっさらったわね。よっ、お手柄!」

 「そ、そうかな……?」

 「もちろんですとも。額に入れて飾っておきたいほどの勝ちぶりでした」

 「ほらほらイブ、もっと喜ぼう! いえーい!」

 「あ、うん!」

 自分のことみたいにうれしそうなリラが両手を近づけてきたので、こっちもえいっと突き出すと景気のいい音がした。

 そのあと全員とハイタッチして回るハメになったり、割り込んだことに文句言われるどころかめっちゃ褒められて逆に恥ずかしかったり、気絶したままの謎の生物を保護することになったり。

 とにかくいろいろありつつも、旅の初日は無事に暮れていったのである。
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