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第二章:
職を求めて三千里?③
しおりを挟む「そういえば、みんな依頼であのへんに来てたんだよね? わたしずっと面倒見てもらってたけど、大丈夫だった?」
「おう、全員で交代してやってたからな。無事に済んだし大漁だぞ」
あっさりそう言ってほい、と、担いでた巨大な麻袋を差し出してくるディアスさん。ひもで縛ってあった口を開けてみせると、ふわんと甘い香りが漂ってきた。中をのぞくと、
「わあ。お花がいっぱい」
「そ。恋重桜っていって、国内だとこの辺でしか咲かない珍しい種類なんだ」
一抱えほどはある容れ物の、口ギリギリまで詰め込んであるのは、淡いピンク色をした花の山だった。八重咲になった花びらがふわふわしていて、ポンポンみたいに真ん丸で可愛い。どこかでかいだことがあるなと思ったら、ハンドクリームとかに使ってある桜の香りそのものだった。
「こいつは栽培が難しくて、欲しかったら花の時期を目指して山に行くしかないんだと。国の境目になってるだけあって道が険しいし、野生の動物も魔物も出る。そこで俺たち冒険者の出番ってわけだ」
「可愛いしいい匂いですね……これ、どうやって使うんですか?」
「まあいろいろ、だな。年の最初に咲く花は特に薬効が強いから、水と砂糖で煮詰めてシロップにしたりする」
「風邪ひいてノドが痛いときに飲むやつね。あと砂糖の代わりにハチミツ入れて、簡単な傷薬にもなるし」
「肌がきれいになるから、化粧水にも使うよ。香水とかも人気なんだって!」
「最近は薬種としてだけでなく、花木全体が持つ魔力の応用も注目されているようです。花染めにした糸で布を織ったり、刺繍を施したりすることで、衣装そのものに防御と回復の機能を持たせることが出来るのだと」
見た目と名前が可愛いだけじゃなく、いろいろと万能な花らしい。そりゃあ人に頼んででも採ってきてもらおうとするよな、うん。
改めて袋の中身に目を落とす。最初はみんな同じ色かと思ったけど、よくよく観察すると微妙にトーンが違う。それこそソメイヨシノみたいな淡いピンクから、少し紅が濃かったり紫がかったりしたものまで、いろんな種類の桜色が並んでいた。木に咲いてた時はもっときれいだったろうなぁ。
「煮出すのがもったいないくらいだけど、染めた色もきれいだろうなー」
「ええ、落ち着いた良い風合いの薄紅に仕上がるそうです。色合いが愛らしいせいか、近頃は出回った噂を聞いて買い求める御仁も増えているとか」
「うわさ? って、ここのお店の桜染めがきれいだよーってやつですか」
「う、……いや、その」
いまはまだお金がないけど、同じ町にあるならそのうち見に行ってみたい。そのくらいの気楽な発言だったのだが、何故か聞かれたショウさんがフリーズした。つつつっ、と顔を逸らして、なんか気まずそうに口の中でもごもご言っている。気のせいか、かろうじて見える横顔がちょっと赤いような……
……わたしのセリフ、そこまで困る要素あったっけ?
「もーっ、若旦那ってばどーしてそこで照れるかなぁ! いくら何でも耐性低すぎー!!」
「め、面目ない……!!」
「あのー、わたし何かマズいことでも……」
「ああ、違う違う。ウワサってのは『恋重桜で染めたものを身に着けると恋が叶う』ってやつで、多分色も名前もかわいいから出た話なんだと思うんだけど」
「……うちのリーダー、そういう色恋関連の話題がまるでダメなの。まわりにおじーちゃんとおばーちゃんしかいない環境で育ったっていうからそのせいかも」
「ああ~~~」
苦笑気味のディアスさんと、ため息をつくフィアメッタの解説に深く納得した。なるほど、口に出すのもためらうレベルで苦手だったのか。
おかんむりのリラから『カッコいいのにもったいない!』って叱られているリーダーさんを見やる。道端でなかったら正座で話を聞いてそうなくらいのしょげっぷりだ。確かに自分よりちっちゃい子に叱られてるというのは、人によっては情けないと思うのかもしれないけど……
「いやあ、意外性があっていいんじゃない? わたしはかわいいなぁと思うよ」
むしろ、何だこのお兄さん可愛いな!? って言いたい。きりっとした男前かつ、普段の口調が渋い分だけギャップがすごい。だかしかしそれがいい!
そんなオタクっぽい心の叫びは、もちろん顔にも声にも出さなかったのだが。
「そうかあ。うんうん、イブマリーは優しいな」
「……あんたが相当心が広いってのはよくわかったわ」
「?? はあ」
ほわほわ微笑ましそうに頭をなでてくれる盗賊さん、およびホッとした様子で肩をぽんと叩いてきた精霊使いさんに、とりあえずことんと首をかしげたのだった。
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