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第3章:情けはリンゴの為ならず
アンノスにて②
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「――あっ、にーちゃんだ!」
元気のいい声と共にドアから走り出たのは、淡い金髪の男の子だ。そのまま飛び付いて空色の目をきらきらさせる相手を、わしゃわしゃ景気よく撫でてやりながらバルトが言う。
「ようリュカ、何日かぶりだな。お前ひとりで森に入って薬草採ろうとしたんだって? 無茶すんなぁ」
「う、とーちゃんにもすっげえ怒られた……ごめんなさい」
「ちゃんと反省したんならいいさ。妹も薬草のおかげで熱下がったんだろ、よかったな」
「うん! ――あ」
うれしそうに撫でられていたリュカの視線が、ふっと見守り体制のティナの上でとまった。とたんにぱあっ、と、さっき出てきたときと比べ物にならないほどの笑みが浮かんで、
「女神様だ――――!!!」
「は? めが……?」
(あああ、そういえばそうだった~~!!)
それはもう、村中に聞こえるんじゃなかろうかという音量で叫んだ少年に保護者二人が首をかしげ、その辺の人々がいっせいにこっちへ注目する。しまった、誤解されたまんまなのを忘れてた!
「わああ、なんで? なんで女神様が村にきてるの!? いもうとのこと見にきてくれたの? じゃあおれ案内するー!」
「え、えええっと」
「……なんだなんだ、リュカ坊はどーした」
「ほらあんた、昨日話したじゃないのさ。あの子が迷子になったとき助けてくだすったっていう……!」
「おお、まさか生きとるうちにお会いできるとはのぅ」
「ありがたやありがたや……」
(ぎゃあああああっっ)
テンションMaxではしゃぎまくって手を引いてくるリュカはそりゃもう可愛かったのだが、遠慮のない声量が思いっきり人目を集めているわけで。大人たちにまで何だか尊敬の眼差しを向けられて、シニア世代に至っては拝み始めてしまった。これは一刻も早く訂正しなければ!
「あのねリュカくん、訂正が遅くなってごめんだけど、わたし女神様じゃないから! いたってふつーに元人間だから! ついでに名前はティナだから、ねっ!?」
「ええっ、ちがうの!? そんなにきれいなのに!?」
「きれ……や、ほめてくれるのは嬉しいけど、残念ながら違うのです。だからあんまり持ち上げてもらうと恥ずかしいのです。わかりましたか少年よ」
「……はあーい、ティナねーちゃん」
「ん、よろしい!」
照れくささのあまりちょっと口調がおかしくなったが、不承不承ながら素直にうなずいてくれたリュカにほっとした。そしてそんなやり取りを終えてふと振り返れば、親方の肩にすがりながらあさっての方を向いて笑いをこらえるバルトの姿が。ふたりのやり取りがツボに入ったらしい。
「ちょっとバルトさん、なに一人でのんきに爆笑してるんですかぁ!! こっちは生きた心地しなかったのにっ」
「や、その、なんだ、あんた意外と可愛いとこあるな……ぐふっ!」
「もーっっ」
「なんだなんだ、えらい別嬪さんだな! バルトの嫁さんか!?」
「えっ、にーちゃんたちケッコンするの!?」
「「違いますッ!!」」
「はっはっは! 照れるな照れるな!」
不本意すぎる誤解に思わずハモって叫ぶ。それがあまりにも息ピッタリすぎて、単なる照れ隠しだと思った親方が豪快にに笑い飛ばしてしまった。ああもう、どうやって訂正すればいいんだ!!
――がさっ。
村のすぐ背後に迫る森の木々から、不穏な葉擦れが降ってきたのは、そのときだった。
元気のいい声と共にドアから走り出たのは、淡い金髪の男の子だ。そのまま飛び付いて空色の目をきらきらさせる相手を、わしゃわしゃ景気よく撫でてやりながらバルトが言う。
「ようリュカ、何日かぶりだな。お前ひとりで森に入って薬草採ろうとしたんだって? 無茶すんなぁ」
「う、とーちゃんにもすっげえ怒られた……ごめんなさい」
「ちゃんと反省したんならいいさ。妹も薬草のおかげで熱下がったんだろ、よかったな」
「うん! ――あ」
うれしそうに撫でられていたリュカの視線が、ふっと見守り体制のティナの上でとまった。とたんにぱあっ、と、さっき出てきたときと比べ物にならないほどの笑みが浮かんで、
「女神様だ――――!!!」
「は? めが……?」
(あああ、そういえばそうだった~~!!)
それはもう、村中に聞こえるんじゃなかろうかという音量で叫んだ少年に保護者二人が首をかしげ、その辺の人々がいっせいにこっちへ注目する。しまった、誤解されたまんまなのを忘れてた!
「わああ、なんで? なんで女神様が村にきてるの!? いもうとのこと見にきてくれたの? じゃあおれ案内するー!」
「え、えええっと」
「……なんだなんだ、リュカ坊はどーした」
「ほらあんた、昨日話したじゃないのさ。あの子が迷子になったとき助けてくだすったっていう……!」
「おお、まさか生きとるうちにお会いできるとはのぅ」
「ありがたやありがたや……」
(ぎゃあああああっっ)
テンションMaxではしゃぎまくって手を引いてくるリュカはそりゃもう可愛かったのだが、遠慮のない声量が思いっきり人目を集めているわけで。大人たちにまで何だか尊敬の眼差しを向けられて、シニア世代に至っては拝み始めてしまった。これは一刻も早く訂正しなければ!
「あのねリュカくん、訂正が遅くなってごめんだけど、わたし女神様じゃないから! いたってふつーに元人間だから! ついでに名前はティナだから、ねっ!?」
「ええっ、ちがうの!? そんなにきれいなのに!?」
「きれ……や、ほめてくれるのは嬉しいけど、残念ながら違うのです。だからあんまり持ち上げてもらうと恥ずかしいのです。わかりましたか少年よ」
「……はあーい、ティナねーちゃん」
「ん、よろしい!」
照れくささのあまりちょっと口調がおかしくなったが、不承不承ながら素直にうなずいてくれたリュカにほっとした。そしてそんなやり取りを終えてふと振り返れば、親方の肩にすがりながらあさっての方を向いて笑いをこらえるバルトの姿が。ふたりのやり取りがツボに入ったらしい。
「ちょっとバルトさん、なに一人でのんきに爆笑してるんですかぁ!! こっちは生きた心地しなかったのにっ」
「や、その、なんだ、あんた意外と可愛いとこあるな……ぐふっ!」
「もーっっ」
「なんだなんだ、えらい別嬪さんだな! バルトの嫁さんか!?」
「えっ、にーちゃんたちケッコンするの!?」
「「違いますッ!!」」
「はっはっは! 照れるな照れるな!」
不本意すぎる誤解に思わずハモって叫ぶ。それがあまりにも息ピッタリすぎて、単なる照れ隠しだと思った親方が豪快にに笑い飛ばしてしまった。ああもう、どうやって訂正すればいいんだ!!
――がさっ。
村のすぐ背後に迫る森の木々から、不穏な葉擦れが降ってきたのは、そのときだった。
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