黄昏の空に竜の舞う

古森真朝

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第五章:王女様と竜

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 「こ、この度は助けていただき、ありがとうございます!」
 「いや、礼ならば本人に言ってやってくれ。もっとも同朋を助けるのは、見習いといえど騎士として当然のことだが」
 「いえっとんでもない!! あの、でも本当にありがとうございました……!」
 「ううん、ふたりとも元気になって良かった」
  一生懸命な様子で感謝を伝えてくる相手に、リーゼは微笑ましく思いつつそう返した。
  市場での出来事から、時は流れて今は夜。通報を受けて駆けつけた騎士団に伴われて、リーゼ達は団の本部へとやって来ていた。無論シモン達の治療と、襲撃状況の聞き取りを行うためだ。
 調査一週間目にして初の目撃証言に、騎士達が色めき立ったのは言うまでもない。早速各々で計画をたて、怪しげな黒ずくめの情報を集めにかかっているようだ。今も執務室のドアを隔てて、威勢の良いやり取りが聞こえて来ている。
 ……ちなみに。今回も単独行動だったにも関わらず、お小言的なものは一切なくて肩透かしを食ったリーゼである。詰め所で出迎えたベルンハルトは顔を見た後、ぽんと娘の頭に手を乗せてこう言った。
 『……周りを見て動けたな。次からも頼むぞ』
 かなり遠回しに誉められたらしい、と気付くのに時間がかかり過ぎて、さっさと仕事に戻った父に返事が出来なかったのが悔しい。ちょうど手当てを終えたライトが見ていて、良かったなぁとまたしても頭をなでられてしまったのも恥ずかしかったが。
 何はともあれ。突然の襲撃をなんとか退けて、駆けつけた騎士たちと現場を片付け、再び移動して治療と聞き取り。そのすべてが終了した頃には、ほどほどに長い春の日もすっかり暮れていた。
 「長々と付き合わせてしまったな。今日は宿を取ったということだが、近いうちに隊の宿舎を使えるようにしておこう。少々手狭かもしれんが」 
 「いいえ!! 入隊前なのにいろいろお気遣いいただいてすみませんっ」
 「そんな恐縮しなくていいってば。その方がシモンくん達は安全だし、みんなも喜ぶし」
 「……そ、そうかなぁ」
 ならいいんだけど、とどこまでも控えめなシモンである。
 しかし彼、先ほどの聴取での受け答えははきはきしていてとても分かりやすかった。しかも身元と一緒に答えていた経歴がすさまじかったのだ。
 「シュテルンシルトの剣技大会で1位なんてすごいね! 現役の騎士でもなかなか上位に入れないって有名なのに」
 「あ、いや、今年はたまたま前の年の優勝者が出てなくて……途中で雨も降ったし」
 ロルベーアの西にある景勝地で、街と同じ名前を持つ巨大な湖が有名な所だ。美しい星空とそれを映し出す澄んだ湖面から『天の水鏡』と称されるここは、年に一回開かれる剣術のトーナメントでも知られていた。毎年のように国内外から強者が押し寄せ、優勝者には士官の話がひっきりなしに舞い込むというから、そのレベルの高さがうかがえる。
 「いろいろお声かけいただいたんですが、本人がどうしても国の騎士団がいいと譲らなくて。スカウトの皆さん、軒並み落ち込んでましたっけ」
 「へえ、熱心だなぁ。けっこう前から目標だったのか?」
 「ええ。何でも十年前に助けていただいた騎士の方が、こちらにお勤めだそうでして。憧れの先輩とご一緒出来るっていうので出発前日なんて一睡も」
 「わあああっプロテア~!!」
 ライトに答えるにこやかな樹竜の言葉を、耳まで真っ赤になった相方が無理やり遮った。そっか~眠れないくらい嬉しかったんだ~、とほのぼのするリーゼである。いいな、そんな素敵な動機があって。
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