黄昏の空に竜の舞う

古森真朝

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第三章:竜と暮らせば

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 一方、地上の話題をさらっている当の本人たちはといえば。
 『リーゼ、寒くないかー? 少しスピード落とそうか』
 「全然平気! ライトが痛くなかったら、もっと本気で飛ばしちゃっていいよ!」
 気遣う白銀の竜、すなわち本性モードのライトに元気一杯で答えるリーゼである。
 本日、首都はこの上ない晴天。澄み渡る空には何一つさえぎるものがなく、あおの続く限りどこまでも飛んでいきたくなる。そんなことを言ったのは父のパートナーだったが、今その言葉に心から賛同したい。
 空気は確かにひんやりしているが、それがまた空翔ける爽快感を倍増させた。風で流されるからという理由だけでなく、高揚して弾んだ大きな声でリーゼが話しかける。
 「あ、ほら。王城が見えてきたよ!」
 数日ぶりに見る白亜のシルエットが、みるみるうちに大きくなってくる。横手に回り込むように大きく弧を描いて飛べば、風を切る音で気付いたロゼッタがバルコニーに飛び出してきた。こちらを認めて、つかの間目を丸くしてから、ぱあっと子供みたいに無邪気な笑みが浮かぶ。優美な唐草模様の欄干から身を乗り出し、大きく『こっちこっち!』と手招きしてきた。よかった、喜んでいるみたいだ。
 「じゃあライト、お城の近くから歩いていこうか」
 『ん? いや、このまま行って大丈夫だろ』
 「……へ?」
 『しっかりつかまっててくれ』
 巨体に反響するせいで、いつもよりこもっている声があっさり言い切った。首をかしげた同行者への説明をすっ飛ばし、ドラゴンは軽やかにターンして進路を変更すると、そのままバルコニー目がけて一直線に突っ込んでいく!
 「えっ、ちょっと待っ……わああっ!」
 あわやぶつかる、という瞬間、見覚えのある燐光が視界を包み込んだ。飛翔しながら瞬く間に人の姿に変じたライトが、背中から宙に放り出されたリーゼをしっかり抱きとめる。そのままの体勢でひとつとんぼを切って、見事露台へ着陸を決めた。
 とっさに身を硬くした彼女に、間近からいたずらっぽい笑みが送られる。
 「な。大丈夫だったろ?」
 「~~~~~~っ!」
 「わあっ、ナイス着地ー」
 「どうも、お招きいただいてありがとうございます」
 こちらは全く動じていなかった姫君と竜との間で、なんとも平和で和やかなやり取りが交わされていたのだが。衝撃の横抱き体勢に硬直した当人は、とてもじゃないがあいさつどころではなく。
 ライトが自主的に下に降ろしてくれてテーブルに落ち着くまで、終始真っ赤に茹で上がったままだった。

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