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第二章:
大正オトメ辻占噺⑤
しおりを挟むずっと背負っていた、小さな脚の付いた板を前に回して直角に起こし、首からひもで吊り下げて固定する。重いものは乗せられないが、占い用の簡易テーブルとして使うなら十分だ。
先ほどのタロットを中心において、円を描くように切っていく。訊きたいことを心の中で念じつつ、真剣な顔つきでシャッフルしていると、通りすがる人たちが何だ何だ、と注目してきた。やっぱりこういう占いはめずらしいみたいだ。
「――はい、ではここから三枚引きます。カードの種類と向きで、質問の答えを読んでいきますね」
一般にスリーカードと呼ばれる占い方だ。選んだそれぞれを過去、現在、未来の状況になぞらえて、問題点と解決方法を読み解いていく。梓紗が一番得意なやり方である。
これまた真剣な表情でうんうん、と頷く女学生(と、いつの間にか集まっていた通行人たち)。それを確認して、選んで並べたカードを左からめくっていった。ざっと内容を見たところで、梓紗の眉間に軽くしわが寄る。良くない結果が出た、のではない。
「失礼なことを言ったらすみません。お父様、もしかして再婚なさってます? で、そのお相手にもお子さんがいませんか。多分女の子かな」
「……!? は、はい! その通りです、義妹がおります!」
目を真ん丸にしてすごい勢いで頷いてくれる依頼人だ。顔に大きく『何で分かったの!?』と書いてあるのが見て取れる。可愛すぎて思わず笑いそうになったのを必死でこらえつつ、最初に引いたカード――宝冠と、ゆったりした長衣を纏う美しい女性の絵柄だ――を、手に取って差し出した。
「一枚目のカードは、過去に起こったことを表します。そして今引いた『女司祭』は、本来は純粋、才色兼備、勘の鋭さ、女性の援助者、などを表すんですけど、これが逆位置で出てました」
「逆……?」
「はい、ひっくり返った状態で引くことです。そうなると、カードの意味が逆転するんですよ」
すなわち潔癖、女性同士の不仲、能力に見合わない完ぺき主義、イライラしている等だ。そして見た瞬間に頭を過ったのが、『血のつながらない母子及び姉妹』という言葉だった。事の発端はおそらく、その義母義妹との不仲にある。
「何となくですが、厳しい方だなぁという印象ですね。プライド、いえ、矜持がとっても高いというか」
「は、はい、おっしゃる通りです。義母様はご実父が議員をなさっていて、ご自身も官立の女学校を首席で卒業されていて……よく叱られます。義妹も器量よしですし……」
《……うん、やっぱりいじめられていたか。ひとの子の心情は難しいな》
白澤の声も同情の色が濃い。しょんぼり肩を落とす依頼人の様子からして、理不尽にいびられている自覚はなさそうなのが救いか。
実の親子でも上手く行かないことはある。ましてや他人同士なら揉めてもしょうがない、とも考えられるが、納得できるかどうかは別だ。何とか力になってやらねば!
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