辻占い師は大正浪漫な異世界で失せモノ探し人をめざす

古森真朝

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第二章:

大正オトメ辻占噺④

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 ――何でも。このお嬢さん、実家が元は武士の家系で、なかなか古い血筋なのだという。いわゆる旧家とか名家、というやつだ。

 ここまで街並みを見て来た感じから想像されたとおり、今はいわゆる『御一新』――つまり明治維新を経て、幕藩体制から新政府による統括が始まった後の時代である。かれこれ数十年ほど経っているそうだから、ざっくりいって明治時代の半ばくらいだろうか。
 
 「わが家よりうんと格上だったお家柄の方も、時代の波に上手く乗れずに落ちぶれてしまったりとか、のみならず土地財産をすべて失ったりとか、一家離散の憂き目を見たりとかで」
 「と、通り一遍の感想で申し訳ないけど、大変ですね……!?」
 「いいえ、とんでもない。そんな中で今日まで存続できたのは、きっととても幸運な事だったのだと思います。ひいおじい様方に感謝しなくては」
 
 幕末からの動乱期、国内が荒れに荒れたということは、歴史の知識として一応存じ上げている。何ならあの辺を舞台にした小説とかマンガとかも好きだ。が、リアルタイムに近い世代の方から話を聞く日が来ようとは思わなかった。八割フィクションの物語とは、当たり前だがことばの重みが違いすぎる。
 
 失礼とは思いつつも青ざめつつ、どうにか感想らしきものを伝えると、こちらはいたって落ち着いている女学生さんは軽くかぶりを振ってみせた。と同時に、その表情がふっと蔭ったのが分かる。どうやらここからが話の肝のようだ。

 「一番大変な時期は、まだ健在だった曾祖父や祖父が凌いでくださいました。どうにか暮らしていけそうだと、皆が思っていたのですけれど、……その、父が投資に失敗して」
 「あああああ」
 
 今度こそ口に出して頭を抱えた。お父さん、でっかく当てたかったんだろうけど、それ今いちばんやっちゃいけないヤツ!!

 とにかくそんなわけで結構な借金を抱えてしまい、一朝一夕には返せそうもない。しかし長男は官僚として勤め始めたばかり、下の子どもたちはまだ学生で、親戚一同も自分のことで手一杯という状況だ。まさしく八方塞がり――と思われたところへ、くだんの爆弾発言が転がり込んできたのである。 

 「母の知人の伝手でして、近年業績を伸ばしている新興のお家柄なのですって。ご当主は奥様が亡くなって久しくて、その後妻として嫁いではどうか、と。
 突然のお話ですし、そんなに年上の方と上手くやっていけるかしら、と……あと、お商売のことには詳しくありませんけれど、わが家は本当に安泰になるのかしら、とも思っていて」
 
 ダメだって絶対!! と、口に出さなかった自分を褒めちぎりたい梓紗だ。それ、どう考えたって人身御供で生贄じゃないか。借金のカタに遊郭とかに売られるのと変わらないぞ!!

 《――梓紗、大丈夫か? ひとまず落ち着くことだ。
 自分で言っている通り、彼女は不安だから伺いを立てる、という選択をした。ならば誠実に答えることで、先に待つさだめも変わっていくはずだ》

 久々に聞こえた白澤の、相変わらずのほほんとした声で我に返った。そうだった、自分は相談を受けている立場なのだ。第一見た目は変わったが、目の前で不安そうにしている女学生より十歳は年上なのである。大人が先に取り乱してどうする!

 「――よし、分かりました! じゃあ今後、この問題がどうなっていくのか、を訊いてみましょう!」

 脳内で自分のほっぺたを引っぱたいて気合いを入れる。しっかり気持ちを切り替えてから、梓紗は早速占いの準備に取り掛かった。





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