辻占い師は大正浪漫な異世界で失せモノ探し人をめざす

古森真朝

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第二章:

大正オトメ辻占噺①

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 下町は、庶民の活気が作るところだ。

 ことに帝都、観音寺の門前は、その代表と言える場所。所狭しと立ち並ぶ見世物小屋に芝居小屋、活動写真館に喫茶店といった流行りのものから、それこそ御一新前より綿々と続いてきたせんべい屋、おこし屋、その他もろもろの土産物の露店がひしめき合う。てんでに客を呼び込む声と、物見遊山の通行人がさんざめく声が合わさって、まるで毎日が縁日のような騒がしさだ。

 中には決まった店を持たず、天秤棒にたらいや岡持ちを下げて売りまわるもの、道の端で朗々と口上を述べて客を引くものなどもいる。わけても目を引くのは、鮮やかな着物姿で御籤の入った菓子を売って回る辻占売りの少女たちだろう。可憐な売り口上の声が雑踏の中によく通って、人いきれの清涼剤の如き風情だった。

 ――そんな辻占の娘衆に、ちょっと毛色の変わった新参者が加わったのは、じきに春も盛りになろうかというある日のことであった。





 「――えー、通う千鳥ー、恋の辻占ぁー!!」

 わりと遠慮なく張り上げないと、人ごみに吸い込まれて消えてしまう。こんなに大声出したの何年振りだっけ、とうっすら思いながら、梓紗はもう一度呼び声を放つ。

 「かりんととおせんべいには飽きた、って方! 当方、おかしはありませんがぴたりと当てて参ります! 占いだけ売る辻占、珍しい西洋の札占い、振り子占いは如何ですかーっ!?」

 《――うんうん、その調子だ。そのくらいの思い切った売り文句の方が、客は寄ってきやすいぞ》

 (そ、そんなもんですか!?)

 これって誇大広告なのでは、と冷や汗がにじむ当人に、耳元で響く声の主はいたって平気だった。のほほんとした調子で言ってくる。

 《大丈夫だ、梓紗の豪運は証明されているからな。占えばほぼ確実に当てられる。あとは君が自信を持って、冷静に結果を読み解くだけだ。伝え方も大切だな》

 (それがいちばん難しいんだけどなぁ……!!)

 励まされているのはわかるのだが、それが実際に対面で出来るかどうかはやってみないと分からないわけで。

 相変わらずのんびりしている白澤の言葉に、一応自分で作戦にゴーサインを出してしまったという事実がある梓紗は、いろいろ思いつつも大人しく荷物を抱え直すに留めておいた。


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