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第一章:

うちの家主が言うことには②

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 今日ももふもふな白澤が、どこからともなく引っ張り出してきた姿見。そこに映っている梓紗は、あっちが言及してきたとおりの変化を遂げていた。

 手入れが面倒だったから、最近はずっと肩くらいの長さで一括りにしていた髪。長さは言わずもがなだが、激務の余波で傷みかけていたのがウソのようにツヤツヤだ。自前の天使の輪なんて、それこそ十年ぶりに見た。

 これまた最低限の手入れしかしていなかったはずの肌も、高級な美容液でも使ったみたいに潤っていた。最近気になっていた頬骨のあたりのシミ、肝斑というらしいが、これがきれいに消滅している。目の下に居座っていたクマもなくなっていて、全体的に血色がぐんとよくなっているのがわかった。

 あと、何よりすごかったのが。

 「なんか全体的に痩せてる、っていうか高校時代の体形だコレ……!!」

 『うんうん。巡りが良くなったからな』

 デスクワークのせいか代謝が悪くなって、ここ数年全体的にたるみ気味だったというかなんというか。つまりはまあ順調に体重を更新していたわけだが、そんな梓紗の悩みの種であったぷよぷよが、きれいさっぱりなくなっているじゃないか。

 高校の頃、少しでも実家から遠くに行きたくて、市の端っこにある公立校に毎日自転車と列車で通学していたのだが、あの頃が人生で一番運動していたと思う。まさしくその時分、十代半ばから後半あたりの自分が鏡に映っていた。

 ……いや、だから何で!?

 『そうだな、まず間違いないんだが、原因は昨日食べた桃だ。甘かっただろう?』

 「そりゃ食べたし甘かったけど……」

 『うん。あれは仙桃といって、三百年に一度しか実らないものなんだ。
 本来は霊薬の原料で、滋養は抜群だが味はよろしくない。もし甘いと感じられたなら、食べたものにそれなりの素質があるということになる』

 「素質、って」

 『具体的には、こうした幽世に自力でたどり着いてしまう、とかだな。現世で暮らしていた時、自分は運がいいと思ったことはないか?』
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