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第一章:
うちの家主が言うことには①
しおりを挟む春眠暁を覚えず。教科書にも載っている有名な漢詩だ。
暖かくなるとつい、気持ちよくて床から出るのが遅くなる、というような内容で、習った当時はうんうんと力強くうなずいたりしたものである。まあ二度寝最高というのは、季節や国を問わない真理だと思うが――
「違うそうじゃない遅刻する!! ……て、あれ」
迫り来る破滅の予感に跳ね起きたところで、ようやくここが見慣れた自室ではないことを思い出した。それと同時に、昨日――といっていいのかわからないが、とにかく寝入る前までに何があったのかがフラッシュバックする。
「…………うーん、やっぱり夢じゃなかったか」
改めての実感にため息をこぼして、再び布団の上に寝転がった。肌触りのいい寝間着はだいぶはだけているが、お構いなしで枕を引き寄せて顔を埋める。
うーん、素敵にふかふかだ。中身はダウンが百パーとみた。
「あー、めっっっちゃよく寝れた~……こんなにすっきり起きたの何年ぶりだろ……」
確実に自慢にはならないが、元いた職場では順調に社畜街道をばく進していた。ストレスで肌はかさつくし、常に身体のどこかしらが不調だし、だからといって有給なんて取ったら休み明けにどんな雑務の山が出来ているか。
そんなこんなで務め出してからこっち、休み以外で満足に睡眠を取った記憶がなかった。
「ふふふ、もうちょい寝てようかな~」
ご機嫌で寝返りを打って、そこでふと違和感を覚える。……自分の声、こんなに張りがあって澄んでいたっけ?
「……あれ?」
おそるおそる半身を起こすと、なんだか妙に軽い気がする。さらにぱさ、と顔にかかったもの――昨日の倍以上の長さに伸びた髪を見て、梓紗は完全に目が覚めた。なんだこれ!!
「はっ、白澤さんー!!」
『ああ、おはよう梓紗。朝から元気だな、安心した』
「あっはい、おはようござ……じゃなくて! 何かよくわかんないけど大変なことになってるの、ほら!!」
『うん?』
襖を開け放って廊下を突っ走り、再びぶち開けた向こうにいた家主に必死で訴える。相手はというと、昨日と変わらないのほほんとした様子で、肩で息する梓紗をしげしげと眺めて、
『――おや、良かったな。十歳ほど若返っているようだぞ、鏡も見るか?』
「いや、そりゃ良いことなんだけど!! 良いとか悪いとかじゃなくてっ」
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