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第一章:
山の主の屋敷にて②
しおりを挟むひっかかりひとつなく、すらりと開いた襖。その向こうはやはり広い畳の間になっていたが、こちら側とは少々違う点があった。
奥に床の間が設えられていること、そこに掛け軸と置物があって、そばの柱には花を活けるための竹篭がかかっていること。そして何より目を引いたのは、
「……何でぬいぐるみ?」
思わず呟いてしまった梓紗の足下。花器を掛けた柱の根元に、ふかっとしたシルエットが鎮座していた。
大きさは多分、小型の犬くらい。全身をふわふわの白い毛で覆われていて、首もとから背中にかけてはさらにふさふさとしたたてがみみたいなものが生えている。見るからに座り心地が良さそうな座布団に腹ばいの体勢で陣取って、大きな目を気持ちよさげに閉じていた。
個人的な感想を言っていいなら、なかなか可愛い。というか年齢的に少々恥ずかしいが、ぶっちゃけるとこういった愛くるしい物体に目がないのだ。
別に誰が見ているわけでもないので、そうっと手を伸ばして撫でてみた。うん、素敵にもふもふ。
「はー、癒される~」
『――くすぐったいな』
「ごめんごめん、つい本能で…………、へ!?」
なにも考えず普通に返事して、一瞬遅れて我に返る。誰の声だ、今の。
手を引っ込めて辺りを見渡すが、それらしき人影は見当たらない。ていうか今、すぐ近くから話しかけられなかったか。いやでもまさか、
『うん、間違っていないぞ。今のはおれだ』
「うわあ!?」
視線を戻した瞬間、ぬいぐるみの目がぱちりと開いた。おまけに高く澄んだ声で、今度こそ間違いなく話しかけられて飛び上がる。まじか。
畳数枚分の距離を後ずさって身構えた梓紗の目の前で、ぬいぐるみはよっこいしょ、といいながら座布団の上で居ずまいをただした。ちょうどお座りの体勢でぺこ、と丁寧に頭を下げる。
『マヨイガへようこそ、お客人。おれは縁あってここに住まっている、白澤というものだ』
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