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第一章:
山の主の屋敷にて①
しおりを挟む落ちた!!
と、思った。つまりそう遠くないうちに着地することになるはずな訳で、とっさに頭を抱えて膝を曲げる。
ところが、いつまで待ってもどこかに叩きつけられるとか、そういう衝撃はやって来なかった。恐る恐る目を開けてみると、
「…………どこ、これ?」
呆然と呟いた声が、がらんとした空間に妙に響いた。
梓紗が立っていたのは、新幹線の中でもなければ脱線事故の現場でもなかった。何故か畳が敷き詰められた、広々とした座敷のど真ん中である。いつもの履き込んだパンプスで踏みしめているのが申し訳なくなるほど真新しくて、清々しいイグサの香りが漂っていた。
(田舎のおばあちゃんちみたい)
相変わらず全く訳がわからないが、とりあえず土足はまずいだろう。よいしょとかがんで靴を脱ぎ、片手にまとめて持つと、梓紗は改めて周りを観察した。
広くて静かな、大広間と言っていいだろう和室。精緻な透かし彫りを施した欄間や、金粉を散らして花鳥を描いた豪華な襖が目に鮮やかだ。しかし残念なことに、事情を訊けそうな相手は見当たらなかった。
というか、先ほどから一切、住民の気配が感じられない気がするのだが……
「……気のせいね、うん。たぶんそう、きっとそう」
一瞬怖いことを考えそうになって、大急ぎで打ち消して襖のひとつに手をかける。とにかく、四方のどれかに進んでいくしかない。どのくらい奥行きがあるのかすらわからないけども。
漆塗りの取っ手に指紋がつきませんように、と祈りながら開け放つ。すうっと軽やかに、美しい襖が滑っていった向こうには、思っていたのとは少々違う光景が広がっていた。
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