21 / 45
異次元ポスト
しおりを挟む――夏の前期。
光の季節が終わり、気温が一気に上がる。
雨が多く、湿度も高い。
ソラウ様は影樹の討伐を行い、その後片づけ、後処理に追われて夏の中期まで戻れない、というグチグチとした手紙が届いた。
それに対して「お疲れ様です。私は先日第一夫人ジェリー様と第二夫人のハンナ様とお茶会をしてきました」と近況を書いた手紙を返事としてお送りする。
ちなみに、その中に一応「ハンナ様にルビーの祝石の指輪とサファイアの祝石のイヤリングとタンザナイトの祝石のペンダントを作ってほしい、と頼まれたのですが、作ってみてもいいでしょうか?」とお伺いも入れてみた。
なんて言うかなぁ?
少なくとも、嫌そうな表情をしていそう。
「シニッカさん、ソラウ様にお返事を書いたのですが……」
「お出ししておきま――あ、せっかくですからリーディエ様がご自分でお出ししますか? 異次元ポストに入れるてみます?」
「異次元ポスト?」
シニッカさんに聞いてみると、満面の笑顔で「面白いんですよ」と私の手を引いて書斎に連れて行ってくれた。
そこにあったのは庭に設置される小鳥のエサ入れのようなもの。
なんだろう、これ?
「リーディエ様のご実家にはありました?」
「いいえ。初めて見ました。これはなんですか?」
「異次元ポストという魔道具です。魔石は聖魔法師に[祝福]で浄化されたあと、魔道具師により魔道具に加工されるのはご存じですよね?」
「はい」
魔石――魔物から採集される穢れた魔力の籠った石。
その穢れを聖魔法師が[祝福]で浄化するのだが、それにさらに[祝福]をかけると祝石になる。
浄化し穢れを取り払っただけで魔石の属性と魔力だけを使用するのが魔道具。
その魔道具を作る職人を、魔道具師という、
私は高価な魔道具に触らせてもらうことがなかったため、魔道具に溢れているソラウ様のお屋敷では驚くことばかり。
特に空調を整える魔道具や、トイレに水を流す魔道具。
お風呂の浴槽に自動で熱いお湯を流したり、料理を作る時に自動で火を放つコンロを見た時は「こんな便利なものがこの世にあるなんて!」と仰天した。
魔道具を見ると、私の実家時代が違うんじゃ……と可哀想に思えてきた。
実家にいた頃は毎日お風呂に入る習慣はなく、またお風呂に入る時はお養父様やお養母様、お姉様とマルチェが入ったあと、残り湯で体を拭くくらい。
対するソラウ様のお屋敷ではほぼ毎日お風呂に入れる。
お湯は捨てることなく、魔石に吸わせればいい。
さらにお掃除もシニッカさんの[洗浄]や[清浄]の魔法で済ませる。
箒や雑巾で掃除しないんですか、と仰天して聞いた私を「それは――平民の掃除の方法ですね」と若干言いづらそうに告げられて衝撃を受けた。
むしろ、貴族籍のあるハルジェ伯爵家がそんな様子であることに、オラヴィさんとシニッカさんは引いていたくらい。
つまり、貴族なら魔道具を持っているのが普通。
伯爵家ならば水回りの魔道具は揃えているのが常識だと思っていた――とのこと。
先日ジェリー様とハンナ様に話をして思ったけれど……ハルジェ伯爵家って……私の育ってきた場所って……本当に超貧乏!?
……なんてことを思っていたけれど、こんな魔道具もあるなんてソラウ様の屋敷がやっぱりすごすぎるのでは?
「リーディエ様?」
「あ! す、すみません。えっと、異次元ポスト、でしたか? これはどうしたらいいんですか?」
「この穴の中に書いたお手紙を入れるんですけれど、その前にこの名札の部分に宛先を書くんです。ソラウ様、と書いて……これでソラウ様のところに届くんですよ」
「これだけで、ですか?」
小屋の上の方に指でソラウ様の名前を書くシニッカさん。
インクもなにもつけていないのに、名札部分にちゃんと名前が浮かび上がるのはなぜなのだろう?
聞くと「魔力で文字を書くんですよ」と教えてくれた。
「魔力があれば誰でも送り先を書くことができるんです。魔力の持ち主の記憶から登録してある魔力の持ち主に送られるんですよ。宛名を消す時も、ほら」
「わあ」
宛名を消す時も魔力を込めればいいらしい。
シニッカさんに「やってみますか?」と言われてワクワクしながら書いてみる。
で、できたー。
「はい。宛名が決まったら箱の中に入れるだけですよ」
「は、はい。やってみます」
でも、シニッカさんの言う「面白い」って、なにが?
不思議に思いながら手紙を細長い穴の中に入れようとした瞬間、箱が突然ガバっと口を開けてバクン! と手紙を食べてもぐもぐ咀嚼まで……!?
「ええええええ!?」
「ね! 面白いでしょう!?」
「だ、大丈夫なんですか、これ!?」
「大丈夫ですよ~。手紙が届く時も摘まみを魔力を込めながら開くと届いているんですよ。そうだ、リーディエ様も魔力登録しておきましょう。そうすればリーディエ様も蓋を開けられるようになりますし、確かお姉様と文通予定なんですよね? お姉様の嫁ぎ先にも異次元ポストがあるはずですから、リーディエ様個人にもお手紙が届くようになると思いますから」
というのも、魔力登録を行っている個人が開けた時にしか手紙が現れない、のような設定もあるらしい。
基本的に”家名”で届くけれど、さっきのように”個人”に宛てた手紙は宛先の個人が扉を開けないと溜め込まれる。
「ソラウ様はおモテになるので、拒否設定をしている登録魔力も多いのですが……」
「拒否設定……」
「たまに脅しや怪しいお手紙も届くのですよ。ですから、ソラウ様の個人異次元ポストには屋敷に登録済み魔力か、王宮登録済み魔力の送り先からしか届かないんです」
「あ、ああ……」
色々ご苦労されているんだなぁ。
「時々覗いてみてくださいね。きっと面白いですよ」
「は、はい。わかりました」
でも、シニッカさんの”面白い”のツボが結構怖かったので蓋を開けるのがちょっと怖い。
3
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
聖女は寿命を削って王子を救ったのに、もう用なしと追い出されて幸せを掴む!
naturalsoft
恋愛
読者の方からの要望で、こんな小説が読みたいと言われて書きました。
サラッと読める短編小説です。
人々に癒しの奇跡を与える事のできる者を聖女と呼んだ。
しかし、聖女の力は諸刃の剣だった。
それは、自分の寿命を削って他者を癒す力だったのだ。
故に、聖女は力を使うのを拒み続けたが、国の王子が難病に掛かった事によって事態は急変するのだった。
婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。
石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。
やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。
失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。
愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王太子から愛することはないと言われた侯爵令嬢は、そんなことないわと強気で答える
綾森れん
恋愛
「オリヴィア、君を愛することはない」
結婚初夜、聖女の力を持つオリヴィア・デュレー侯爵令嬢は、カミーユ王太子からそう告げられた。
だがオリヴィアは、
「そんなことないわ」
と強気で答え、カミーユが愛さないと言った原因を調べることにした。
その結果、オリヴィアは思いもかけない事実と、カミーユの深い愛を知るのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】逆行した聖女
ウミ
恋愛
1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる