19 / 45
光の季節のお茶会で(3)
しおりを挟む光の季節は十五日。
お茶会が開催されたのは、光の季節も終わりにかかる光の季節の十四日目。
やってきたのは貴族街にあるティフォリオ公爵家の本家離れの別邸。
で、デッカ……! ひろ、広すぎない?
これが公爵家……。
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」
「は、はい」
「大丈夫ですよ、リーディエ様。出かける時にちゃんと確認しました。今日のリーディエ様は今までで一番可愛いですよ! 一番可愛いリーディエ様を最初に見るのが我々なのはちょっと申し訳がない気もしますが」
「そ、そうですか? うううん……」
ピンク色のふんわりレースの赤いリボンのついたカジュアルドレス。
これは私の初めてのお給料で、既製品を急遽シニッカさんが選んで買ってきてくれた。
このお茶会の帰りに、夜会用のドレスを仕立てに寄ることになっている。
そんなものいらないのでは、と思っていたら「今後ソラウ様無関係でリーディエ様自身と知り合いたいという方が必ず招待状を送ってきますから」と念押しされてしまった。
そうなった時に必要だし、一着あるのとないのでは安心感も違うでしょう、と。
そう言われてしまうと……確かに?
祝石細工師としてお客様にご挨拶をする時のカジュアルドレスも、他にも数着必要と言われてそれはまた別の日に行く約束をしている。
こういうカジュアルドレスや夜会用のドレスが必要になると思うと、私って祝石細工師として順調に成長してるんだなって嬉しく思う。
なんてことを考えていると、中庭に通される。
綺麗に様々なお花が咲き誇るお庭の中にある東屋で、優雅にお茶を飲んでいたご婦人がお二人。
お一人は白髪のややぽっちゃりな老婦人。
もうお一方はレモンイエローの髪をふんわり三つ編みにしたこちらもぽっちゃりしたご婦人。
歳が一回りくらい違うように見えるお二人のご婦人方は、私が近づくのに気がつくとパア、と嬉しそうに笑顔を見せた。
「まあまあ! あなたがリーディエ様かしら!? ようこそようこそ! よく来てくださったわ! ささ、こっちよ! 座って座って!」
「まあまあ、ハンナさん。そんなにはしゃいでは驚かせてしまうわ。ようこそ、リーディエ様。わたくしはジェシー」
「ワタシはハンナよ。さあさあ!」
「お、お邪魔いたします。あ! ご、ご招待に預かりました、リーディエと申します。ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
「いいのよ~! むしろお茶会のご招待を受けたのはこちらなのに、本宅に来てもらってごめんなさいね」
積極的にわたしを迎えてくださるのは第二夫人のハンナ様。
空いている席に座らせられて、公爵家の第一夫人と第二夫人に挟まれる状況に硬直するけれど、ジェシー様がニコニコと微笑んでおられる。
今回お茶会をお誘いしたのは私だけれど、立場は私が下なので公爵家にお邪魔する形になった。
まあ、ジェシー様がご高齢で移動がお好きではないのと、公爵家に名を連ねる方の弟子に入ったことで本家へご挨拶する必要があったことでこういう形になったのよね。
お茶会の準備を公爵家本家側に全部していただいたのは申し訳がないけれど、私が今住まわせていただいているソラウ様のお屋敷にはオラヴィさんとシニッカさんしか常駐の使用人がいないので、公爵夫人をお二人もおもてなしする準備を整えるのは難しかったし。
と、いうわけで今のこの状況。
早速ご挨拶を失敗してしまった!
「あの、ええと……私はその……」
「ええ、ええ。事情は聞いておりますわ。大丈夫よ。淑女教育は受けてこなかったのでしょう? 大目に見るから大丈夫ですよ」
「あう……も、申し訳ございません……」
もうすでに「大目に見ます」って言われてる……!
ああ、本当に申し訳ございません!
「うふふふ! こんなに若い女の子、まるで娘ができたみたいねぇ! ジェシー様もワタシも男の子しか産んでないし、孫たちもみんな男の子だし! しかも祝石細工師さんなのでしょう? ああ、色々話を聞きたいの!」
「あ、あ、は、はい。わ、私も祝石細工師になって日が浅いので、聞かれてすべて答えられるかわかりませんが……わかることでしたらはい、な、なんでも……」
「本当? ねえ、ワタシルビーの祝石の指輪とサファイアの祝石のイヤリングとタンザナイトの祝石のネックレスがほしいの。いつでもいいんだけれどね? オーダーできないかしら?」
「ハンナさん」
急にお仕事の依頼?
え、これはどう返事をしたらいいのだろう、と驚いて顔を上げたらジェシー様が笑顔でハンナ様の名前を呼ぶ。
するとハンナ様がゆるゆると肩を落とす。
「うう、ごめんなさい。つい、はしゃいでしまったの。急に作ってほしいなんて言ったら困るわよね。でも、そのくらい祝石の装飾品は滅多に手に入らないんだもの! その祝石の装飾品をオーダーメイドで持っているのは自慢になるのよ! それを作れるリーディエ様はとってもすごいのよ!」
「そうねえ。でも、お仕事のお話はもう少し他の話しのあとでもいいのではなくて? 今日のお茶会はリーディエ様のマナーや所作を見て差し上げる意味もあるのですから」
「ああん、ジェシー様がそうおっしゃるのなら……」
さ、さすが第一夫人ジェシー様。
やっぱり年長者の方がお強いのね。
3
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
【完結】私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか
あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。
「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」
突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。
すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。
オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……?
最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意!
「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」
さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は?
◆小説家になろう様でも掲載中◆
→短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる