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最後まで媚びることにした
しおりを挟む「いい加減にしろ! じゃあ本当に置いて行くぞ!? いいんだな!?」
「ひぐうっ!?」
この面倒くさい構ってちゃんめ!
拗ね散らかして「そんなことないよ。一緒に逃げようよ」待ちとウッゼエエエエエエ!
時間ないって言ってんだろうがよ!?
千代花が出たことで別動隊がこっちに来る。多分!
こいつの駄々っ子っぷりに構ってられない。
こんなやつを「マッチョが怖くて泣いちゃうの可愛い」って言えるユーザーの仏のように広い心に感謝するべきではないかこいつ。
「行くぞ、真嶋!」
「はい!」
真嶋の返事があまりにも快活。
こいつもウジウジウザい墨野に思うところがあったのかもしれないな。
残りの剣を一本だけ持ち上げて、出口の階段へ向かう。
本当にでかい出口だな。
十メートルくらいの高さがある。
「ま——待ってくれ! お、俺も、行くよ!」
「はぁ……」
足を怪我した真嶋は俺の肩に手をかけて歩いていた。
その分すっとろいので、墨野は簡単に追いついてくる。
「なあ、高際、ここから先の道は、お前わかるんだよな?」
「さすがに攻略対象視点は知らないし、ここから先はムービーだったし省略されててわからないよ」
「そ、そんな……ど、どうすんだよ。大丈夫なのか?」
「うるせーなぁ。エンドロールのあとの語り部分に、『森の坂道をひたすら下りた』って言ってた気がするからひたすら下れば助かるんじゃねーの、多分」
「そんな曖昧な!」
「いたぞ!」
「「「!」」」
階段を下りると見えてきた森。
おそらくあれのことだろうと、そのまま森に入ろうとした時だ。
複数の重々しい足音とガシャガシャという金属音。
知らない男の声に右を向くと、やや丘になった方からマスクを被った男がこちらに銃を向けていた。
まっずい! こっちは錆びた剣しか持っていない!
千代花は——!?
「ぐあああっ!」
「高際さん! 銃です! これですか!?」
「ち、千代花ちゃん!」
さすがおっぱいのついたイケメン!
兵士を蹴り飛ばして、銃だけ奪って駆け寄ってきてくれた。
一度真嶋を墨野に預けて銃を見せてもらう。
ショットガン——ベネリ M3スパス12 M870。
散弾銃タイプで連射速度が速く、日本国内の自衛隊でも採用されている優秀な銃だな。
軽量で撃てる弾の種類が多くなく、固定化反動で壊れやすい。
でも——
「ナイス、千代花ちゃん」
狙撃にも対応している銃だ。
すでに撃てるようになっているあたり敵さんの殺意高すぎてドン引きなんだけど、丘の方へへと向ける。
この銃は弾数三発のみ。
千代花の後ろに現れた兵三名へ向けて、撃つ。
「ひゃわ!」
「ぐぁ!」
「うっ」」
「がっ!」
千代花には驚かれたが。
装填できないのは不安だが、安全装置だけしっかりしておこう。
あと二発。
「よし、今のうちに行こう!」
「お、おおぅっ」
「高際さん、銃まで使えるんですかっ」
「ゲームで覚えた。撃ったのは初めて」
「「ゲーム!?」」
千代花と共に後ろを気にしながら、森の中をとにかく下りていく。
できるだけ木々を背にするように、真嶋と墨野を先行させる。
「ストップ!」
「え!」
「どうしたんですか、高際さん」
クソ、想定しておけばよかった。
先に進んでいた墨野たちの前に、フェンスが見える。
例の高圧電流のフェンスだろう。
駐車場のやつより高い。
この先に行くには銃は捨てて行った方がいい、けど——。
「あのフェンス!」
「うん……」
千代花も気づいたのか。
どうしたもんかな?
ワンチャンに賭けて撃ってみるか?
「高圧電流のフェンスか!? お、おい、どうするんだ!?」
「本当に電流が流れているか調べる。下がっててくれ」
「なにをするんですか?」
「撃ってみる」
安全装置を外してフェンスに向かって引き金を引く。
散った弾丸がバチバチ音を立てて焦げた。
うん、ちゃんと高圧電流、流れておられますね。
「ダメだな」
「うわああぁ、どうするんだよ!!」
「高際さん、後ろを頼みます」
「え? うん?」
千代花に頼まれて銃口を後ろへ向ける。
追ってきている兵が数名。
向こうは重装備だ、俺たちほど軽快に動けない。
とはいえ、すぐに追いつかれそうな距離だ。
千代花が真嶋と墨野を脇に抱え、飛び上がった。
フェンスの外に二人を置き、戻ってくる。
「高際さん!」
「うお!」
後ろ向きの俺を抱えてジャンプする千代花。
銃口が向けられ、容赦なく撃ってくる兵士を空中で狙い撃つ。
銃弾は千代花の回転による風圧でどこかへ飛んでいく。
ちょっとその回転で俺の内臓がひっくり返った気がするんだが、気のせいということにしておこう。
今はそれどころじゃない。
「行ってください! すぐ追いつきます!」
「千代花ちゃん!」
俺を地面に転がすと、千代花がフェンスの中へと戻る。
確かに、フェンス越しに銃弾のいくつかは届くだろう。
坂の上からなら狙撃も届く。
千代花が敵の注意を引いてくれる方が——俺たちの生存率は上がる。
だが……いや。
「行くぞ!」
「は、はいっ」
「はあ、はあ! はあ! はあ!」
墨野と共に真嶋を引きずるように……いや、もう転がり落ちるように山を下りる。
すると、道が見えた。
舗装された道だ。
「み、道……道だ!」
「あ?」
その時、タイミングよく上から車が下ってきた。
この道はキャンプ場に続く道だ。
つまりあの車はキャンプ場から降りてきたということでは?
しかもあの車、見たことがある。
「あ! マ、マネージャー!」
「高際さん!?」
「く、車!? 高際の知り合い!? た、助かるのか!?」
高際のマネージャーだ。
停車して窓から顔を出すマネージャーに、慌てて駆け寄る。
「高際さん、無事でしたか!? 朝から待ってたんですけど……」
「すまない、ありがとう! ついでにこの二人を病院に連れて行ってくれ!」
「た、高際さん!?」
「高際さん、どこへ——!」
真嶋を後部座席に突っ込み、背を向ける。
声をかけてきたマネージャーには、ちょっと申し訳ないな、と思う。
でも——
「なんでもない。ちょっと惚れた女を迎えに行ってくるだけだ」
「え!」
「でも、あとでまた迎えにきてくれると嬉しい! 頼んだ!」
「た——高際さん! スキャンダルは、困りますからねーーー!?」
こんな時でも高際義樹のキャリアを案じてくれるマネージャー、マジいい人。
銃を持ったまま、坂道を登る。
結構、かなり、限界まで体力、きてるな。
ああ、でも朝から緊張状態だし……四階以降は歩きっぱなしだし……ゾンビと戦ったりラスボスにちょっかいかけたり……そりゃあ疲れるか。
でもさ、あと少しだろ、俺。
頑張れるよな? 俺。
「……ったく……本当、クソゲーだよなぁ」
生き延びるために媚びると決めたんだから、最後まで媚びるさ。
このクソゲー『終わらない金曜日』を終わらせられるのはヒロイン、鬼武千代花だけなのだから。
どんなに意味わからんオチでも、謎が解き明かされることがなくても、DLCプレイしないとわからなくってもまあ構わない。
口元が自然に笑う。
空耳かもしれないけど、彼女の声が聞こえた気がした。
終
応援ありがとうございます!
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